世界では30億人以上が海に直接依存して生活しており、観光、漁業、水産業、海運、輸送業などは、地球の表面の70%を占める水によって支えられています。世界の国々、コミュニティ、人々は、食料や生計、生物多様性、アイデンティティのために、海とその資源に大きく依存しています。しかし、地域の海洋生態系は、人間の持続不可能な行いによって引き起こされた様々な環境ストレスの重圧に苦しんでいます。

2008年から、国連は6月8日を「世界海洋デー」と定め、人間の行動が海に与える影響を一般の人々に伝える機会としています。今年のテーマを「Life & Livelihoods(生命と生活)」とし、文化的、社会的、経済的な観点から人類と海との関係を明らかにし、真の理解に基づいてバランスを取ることの重要性を訴えています。2030年までに、30%の土地と海を守ることを目標としています。

サステイナビリティはしばしば、消費者にとって、環境か経済か、あるいは生命か生活かの二者択一として位置づけられます。これは、想像力の欠如と現状維持を好むことで生まれる誤った二項対立です。実際、サステナビリティは、消費者の期待に応えるだけでなく、生命と生活のバランスをとり、双方に利益をもたらすような革新的な製品やソリューションを開発するチャンスを企業に与えてくれます。結局のところ、健全で繁栄した地球なしには、生活は成り立たないのです。

全体像

数年ごとに、環境、動物、人間、あるいはその3つすべてに害を及ぼしている業界の暴露を謳ったドキュメンタリーが公開されます。今年パニックを引き起こした作品は、Netflixの「Seaspiracy」で、商業漁業が海に与える破壊的な影響と海洋生物へのダメージを訴えています。このようなドキュメンタリーの正確性については賛否両論ありますが、消費者の神経を逆なでするような内容だということは否定できません。「Seaspiracy」の最後の呼びかけである「魚を食べるのをやめよう」という行動は、ほとんどの消費者には少し無理があると思いますが、だからといってこの種の映画が影響を与えないわけではありません。消費者の中には、消費を見直したり、減らしたり、プラスチックの包装に気を配ったり、パッケージに記載されている持続可能性のアピールをより詳細に吟味したりする人が出てくるでしょう。感情を揺さぶるストーリーテリングによって、正確な統計データを忘れてしまった後でも、メッセージが心に響くのです。

何よりも、海洋、気候、生物多様性の問題がいかに相互に関わっているかを消費者が認識するようになりました。私たちは、深刻化する気候危機の中で、乱獲や動物消費全般に新たな関心を寄せています。消費者が購入品の倫理性に期待することが、ますます複雑になっているのです。Mintel Purchase Intelligenceの調査によると、例えばオーストラリアの消費者には、サステナビリティを理由に養殖魚を求める人もいれば、持続不可能で不健康だと考えて養殖魚を避ける人もいるようです。

ここでの複雑さは、どちらの方法も持続不可能である可能性があるという点にありますが、漁業者自身の実践によるところが大きいです。そのため、ブランドは隣接する問題を理解し、消費者の不安を解消することも重要です。例えば、「野生の魚」という表現は、一人の漁師が海から新鮮な魚を引き上げているイメージを想起させるかもしれませんが、消費者は混獲や海底トロール漁による被害などの問題について、よりよく理解しています。同様に、養殖魚はそれらの問題を回避する代わりに、添加物、抗生物質、魚にとっての環境、環境生息地の劣化などの懸念を引き起こします。

これらの問題と並行して、世界貿易機関(WTO)は、漁業を支える政府補助金の廃止を長年にわたって推進してきました。世界の魚類個体数の乱獲の原因となっていると同時に、富裕国が、海に依存して地域社会を支えている貧困国の小規模漁民を駆逐していまっているからです。消費者は、自分たちの消費がいかに大きな影響を与えるかを理解し始めており、ブランドは消費者に代わって変化を促進しています。例えば、アメリカの多国籍企業であるウォルマートは、販売するすべての生鮮魚と冷凍魚を、サステナブルな漁業を推進するMarine Stewardship Council(海洋管理協議会)の認証を受けたものにするという目標を掲げています。政府が手をこまねいていても、ブランドは消費者の声を増幅させ、変革の担い手となることができます。

海洋プラスチック

環境保護団体のOcean Conservancyが2017年に発表したレポートによると、海に流れ着く800万トンのプラスチックごみの半分以上が、5つの国から来ていることがわかりました。中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイの5か国です。それ以来、消費者はプラスチックの使用が海に与える影響を意識するようになり、地域はプラスチックへの依存を抑制するための小さな一歩を踏み出しました。バリ、ペナン、ボラカイなどの観光地ではレジ袋の使用が禁止され、この地域の多くの小売店ではレジ袋の有料化を実施していますが、消費者からの抵抗はほとんどありません。実際、Mintel社の調査によると、消費者は自分の習慣を変える必要性をますます認識しています。米国の消費者の77%は、個人のサステナブルな行動が世界に影響を与えると答え、78%はブランドによる環境保護のための大規模な取り組みが必要だと考えています。英国では、45%の消費者がプラスチック汚染を最も重要な倫理的関心事のひとつとしており、中国では84%の消費者が非倫理的な行動をする企業をボイコットする用意があると答えています。

ラテンアメリカでは -

米国では -

海洋プラスチックの問題は、現在海を汚染しているプラスチック廃棄物を回収することと、そもそもプラスチックが水路に到達するのを防ぐことの2つの側面があります。各ブランドは、これに対してイノベーティブで総合的なアプローチを採用しています。フィリピンのPlastic Barter Storesでは、プラスチック廃棄物と引き換えに食料や商品をコミュニティに提供し、そのプラスチック廃棄物をレンガにして低コストの住宅プロジェクトに利用しています。ドイツの化学・消費財メーカーであるHenkeは、プラスチックバンクと提携し、Social Plasticを同社のランドリー&ホームケア製品のパッケージに採用しました。Social Plasticは、恵まれない人々やコミュニティによって回収されたプラスチックを、海に入る前に再利用するもので、海に捨てられたプラスチックごみの浄化と、回収者に貧困から抜け出す道を提供するという2つの目的を持っています。

多くのブランドが、未使用プラスチックの使用を制限し、リサイクルされた廃プラスチックのみを使用しようとしています。オーストラリアのビューティーブランド「Ultraceuticals」は、Ocean Waste Plastics(OWP)と提携し、未使用プラスチックの使用量を減らすと同時に、海からプラスチック廃棄物を排除することを目指しています。パッケージに特別なこだわりを持つ美容業界のブランドにとって、移行プロセスは難しいかもしれませんが、消費者の期待が高まっていることから、ハードルが高くても実行する価値のあるプロセスであることをブランドは認識しています。

透明性がキーである

消費者は、自分の価値観に合った選択をするためにパッケージの表示を頼りにし、安心感を得るために環境保護に熱心な組織の認証マークを信頼しています。「Seaspiracy」のようなドキュメンタリー映画は、こうした認証に対する消費者の信頼を低下させてしまいます。つまりブランドは、消費者の懸念を解消するために第三者機関との提携に頼るだけではいけないということです。ブランドは、自分たちの業界が直面している課題について現実的に考え、活動について透明性を保つことで、いわば課題を示すことがますます重要になるでしょう。

消費者が求めているのは誠実な取り組みです。そのためにはサプライチェーン全体でサステナビリティの目標を設定し、それを達成するための抜本的な透明性と説明責任が必要です。真に説明責任を果たすための最も重要な要素のひとつは、こうした取り組みを測定可能にする情報やデータを収集することです。問題の本質と規模をきちんと理解しなければ、どのような取り組みが効果を上げているのかを知ることはできません。このような問題に対しては、企業が率先してイノベーティブな解決策を打ち出し、消費者の不安を解消するだけでなく、消費者をワクワクさせるような新しいアプローチをとるチャンスがあります。サステナビリティへの道は困難ですが、必ずしも退屈なものである必要はありません。