世界的な都市封鎖。景気後退の状況。環境と政治の変化。そして言うまでもなく、新型コロナの世界的大流行。2020年は、他に例を見ないほど世界を揺るがす出来事が起こり、世界中で危機的な状況が多発した年となりました。人々や企業、ブランドは、新たな現実や物事の進め方への適応を余儀なくされており、今後も続いていくのであろう新しい習慣が多く生まれました。こうした新しい習慣は、消費者支出や今後のブランドの活動に大きな影響を与えることが予測されます。

2021年に向けて、ミンテルは世界の消費者市場に影響を及ぼすと考えられる、7つのマクロ消費者トレンドを見出しました。これらのトレンドはすべて、ウェルビーイング(心身の健康)、環境、権利、経験、価値、アイデンティティ、テクノロジーといったミンテルの7つのトレンドドライバーのシステムに組み込まれています。ミンテルは、現在(今後1年間)、今後(1年半以上)、そして未来(5年以上)を軸に予測を展開しています。

消費者が優先順位を再定義する中、ブランドやマーケターが2021年以降に向けて、対応策を考える必要があると思われる主要な消費者動向についてご紹介致します。

定義のない健康

新型コロナのパンデミックによって、消費者は自分にとっての本当のウェルビーイング(心身の健康)とは何かを考え直すようになりました。マスクなど、新型コロナウイルスからの物理的な保護という形にとどまらず、よりホリスティック(心と体は共に調和し合い、繋がりを持った一つの存在として全体的に捉える)なウェルビーイングの概念へと注目が集まりました。気分を向上させようとする人もいれば、迫り来る不況を前に財布の紐を締めようと気を引き締める人もいる中で、人々はこうしたホリスティックなウェルビーイングを手に入れられるような製品、サービス、ブランドを求めています。アジア太平洋地域では、消費者の76%がストレスの軽減方法を積極的に探していると回答しています。

新たなウェルビーイング(心身の健康)を目指す消費者の動機は、広く多面的になり個人の動機によりパーソナライズされたものとなり、個人と密接に関わるようになってきました。例えば、今までは体重を落としたいから運動する、という一つの動機だけが注目されてきましたが、今や運動する理由は人それぞれで消費者個人が「どうしてそれをするのか?」という個人の考えを基に行動を起こすようになりました。今後ブランドは、消費者個人が自分らしい、自分の為のウェルビーイング(心身の健康)を探し出す過程を、消費者とどのように繋がりながらサポートしていけるのかを考えていく必要があります。

人と人との繋がりやサポートで重要な枠割を担うのはテクノロジーです。ウェルビーイングへの取り組みは、これからの時代において家庭が中心となるため、消費者が健康的なライフスタイルを評価し維持できる、便利でシームレスな解決策が強く求められるでしょう。将来的には、テクノロジーによって、消費者はAIを活用したサービスを介して、健康に関する情報やサポートをすぐに利用できるようになると考えられます。また、医療技術の進歩によって、アジア太平洋地域で十分なサービスを受けることのできない消費者グループが、より多くの医療サービスを利用できるようになるとミンテルは予測しています。

サステナブルな空間

トレンドドライバーである「Surroundings : 環境」が牽引する「サステナブルな空間」では、持続可能性に対する消費者の意識が、リサイクルや炭素排出量に対する意識にとどまらず、いかにしてより全体的で(環境と人間を地球規模で考えた際の全体的なバランス)長期的な視点へと進化するかに注目しています。「ローカル」という消費者の概念が薄れてきている一方、地域社会や経済を支援しようとする傾向が強まっていることから、現在はハイパーローカリズム(超地元優先主義)が世界から注目を集めています。実際、アジア太平洋地域では、消費者の66%が新型コロナのパンデミックをきっかけに地元企業からの購入を増やしたいと答えています。ローカリズム(地域主義)に焦点をおいたコミュニティ支援から始まり、最終的には消費者をより良い生活習慣へ徐々に導いていく等、ブランドは持続可能なコミュニティを創造するために自由に使える戦術の幅を広げながら、常に進化し続けていくことができるでしょう。

2021年以降、気候危機は無視できない問題となり、先を予測することがますます困難となる環境下で、生活をサポートしてくれるブランドに消費者の注目が集まるでしょう。消費者は、自給自足をしながら廃棄物の削減やより公平で倫理的な社会を望んでいるために、地元ブランドと協力している企業やブランドに、気候変動の問題に大きな影響を与える、具体的な技術的解決策を求めるようになると予想されます。長期的に見れば、人々の寿命が長くなるにつれて、消費者のニーズは変化し、ブランドによる地域に密着した都市農業への取り組みや、持続可能性の尊重、廃棄物削減、そして循環型経済の促進など、消費者が製品へ求めるものも変化していくでしょう。

エンパワーメント

昨年は、それぞれの国や地域社会に存在する社会的不平等が数多く浮き彫りになりました。消費者と地域社会との結びつきが強まる中、消費者はブランドに対して十分なサービスを受けられない人々や恵まれない人々のために、プラスの変化をもたらす存在であることを求めています。アジア太平洋地域では、5人に3人の消費者が、非倫理的な行動をとる企業に対してボイコットを実施する覚悟ができていると答えています。消費者の声はかつてないほど大きくなっていますが、必ずしも否定的であるわけではありません。むしろ、自分たちが信じ、地域社会に貢献していると感じるブランドを支持したいと考えています。消費者は引き続き、企業や規制当局に対して、地域社会のニーズに応えながらスピード感をもって、真の意味で体系的な変化を起こすように求め続けるでしょう。既にアジア太平洋地域全体において、企業は自社の欠点を公に取り上げ、目に見える前向きな変化をコミットするという展開が、地域全体でゆっくりとではあるが確実に見られるようになりました。

1年半から2年後には、多くのブランドによる取り組みの数々の成果が見え始め、今後のビジネス戦略の指針となる前例となるものが出来上がると考えられます。倫理感と目的意識を持ったビジネス哲学が主流になり、長期的には、消費者とブランドとの間にさらなる協調的なパートナーシップが生まれ、2020年初期に始まった緊張感のある、張り詰めた時代から脱却すると予想されます。

バーチャルライフ

多くの人がこの一年で経験したことだと思いますが、美しい熱帯の島で貝殻を集めたり、魚を釣ったり、友達を訪ねてみたり...心行くまであちこち訪ね回る旅が出来た方は手を挙げてみてください...(ピンとこない方々へ。これは、コンピューターゲーム「どうぶつの森」の世界の話です。)ロックダウン期間中に何らかの形で現実逃避する必要性が急増した中で、このゲームは様々な年齢層や、ゲームレベルの消費者から絶大な人気を博しました。今年は、ゲームが単なる娯楽ではなく、あらゆる年齢層の様々なタイプの消費者が、仲間や好みのブランドと繋がるための必要不可欠な空間へと変化していくと予想されます。そのため、あらゆるカテゴリーのブランドは、ゲーム内に広告を出したり、ゲーム会社やeスポーツチームと提携したりすることで、仮想世界で余暇を過ごす膨大な数の消費者にリーチする機会を得ることが出来ます。

2021年以降に主流となる5Gの導入によって、オンラインやゲーム化された体験、そしてイベントに新たな展望が開かれることが予想されています。ここにこそ、ブランドがエンターテインメント、仕事、学習に関する自社戦略を具体化していける可能性が潜んでいます。また、仮想世界で過ごす時間が増えることで、消費者がデジタル・エンターテイメントに対してバランスのとれた向き合い方を望むようになり、中毒性のないゲーム設計の必要性といった話題が活発に議論されるようになることが予想されます。

優先順位の変化

トレンドドライバーのひとつである「Value : 価値」が牽引する2021年のトレンドは、消費者が必要最低限のものだけを持つ生活に立ち返り、ものを持つことに対して柔軟性を求め、そもそも所有することの意味を考え直している動向に焦点を当てています。消費者はすでに、今後の厳しい時代に備えて財布の紐を締めており、貯蓄を増やして、価値を感じられない分野には支出を減らしたいと考えています。アジア太平洋地域全体では、消費者の72%が可能な限り確保しておきたい予算があると回答しています。手頃な価格設定や利便性は引き続き重要事項ではあるものの、商品の安全性、保護性、および耐久性も消費者にとっては大きな価値を感じられる要素であります。自社製品を必要不可欠な存在へと変えていくための具体的なメリットを提供し、消費者とのコミュニケーションを積極的に増やしていく事が、ブランドにとって極めて重要になるでしょう。

先行きが不確実な状況が今後数年は続くものと予想されることから、消費者はさらに柔軟性を優先させるでしょう。柔軟なレンタル条件や支払い方法、商品の入手方法(必ずしも所有するものだけではない)は、あまり先の計画を立てられない消費者にとって魅力的な要素となります。また、消費者にとって利便性という言葉の概念も進化していくでしょう。通常、利便性が意味するところは、単にスピードや機動性だけですが、今後は人々が先の計画を立てる助けとなり、以前は手の届かなかった製品やサービスに簡単にアクセスできるようになる、という意味合いも付け加えられていくようになるでしょう。今後数年のうちに、ブランドはこの拡大した利便性の定義の中にビジネスチャンスを見出していくことができるでしょう。

共感を接点に人が集まる

新型コロナのパンデミックが世界に与えて続けている影響を、消費者は日々の現実として受け止めている中、パンデミックが始まった時に経験した集合的トラウマは、今後1年間においても続いていくと予想されます。消費者はパンデミックによる精神的ストレスを克服するために、デジタルかアナログかに関係なく、人々を結びつけられるブランドを求めるようになるでしょう。また、いつもの日常を送れなくなったことにより、消費者は地域社会とのつながりを求め、伝統や価値、ライフスタイルを尊重する新たな方法を探すようになるでしょう。ブランドには、消費者のアイデンティティと結びつけて、帰属感や一体感を促進する新たな取り組みが期待されています。

これから数年の間に、社会的隔離や相互支援の必要性から生まれた強いコミュニティ意識は進化していくでしょう。消費者は、地域的なアイデンティティだけでなく、自分の興味や信念、目標に基づいた新しい形の繋がりを求め続けると考えられます。そして、この傾向が今後さらに強まれば、私たちの周囲の環境にも影響を及ぼす可能性があり、都市空間は多様性のあるコミュニティの存在を念頭に置いて設計されていくようになるでしょう。

デジタルジレンマ

新型コロナの感染が拡大する中、テクノロジーをベースにしたソリューションは、消費者とブランドの両方に非常に役立つ存在であります。しかし、アジア太平洋地域の多くの消費者には、様々のテクノロジーに対する経験が依然として不足している状況です。ブランドにとっては、ここに商機があり、テクノロジーを活用した包括的なソリューションを開発していくことで、消費者の利用率向上や支持を得ることができる新たなビジネスチャンスを見いだすことが出来ます。また、消費者はコロナ禍で、家庭と仕事の分離を実現することが依然として難しいとされているため、2021年には、メンタル ウェルビーイング(心の健康)を促進するためにテクノロジー技術を駆使した(または使用しない)先制的なソリューションが歓迎されることになるでしょう。

今後数年のうちに、テクノロジーは私たちの日常生活に深く浸透し、消費者はテクノロジーとの競争にますます不安を抱くようになると予想されます。将来的にテクノロジーが担う役割が増えていくにつれて、企業はテクノロジーによって可能になる事と、人と人とのやりとりでしか実現できない事の、どちらを優先するのかを意識的に選択しなければならなくなるでしょう。未来の都市計画に秘められた可能性(自律走行車や空飛ぶ車が登場するかもしれない)は大変興味深いものだが、未来のハイパーコネクテッドな世界で最も懸念されることは、オンラインでもオフラインの状態であっても、プライバシーであると言えるでしょう。ブランドと消費者が最終的に協力して、人々のデータを共有することで収益を上げ、利益を得ることができるのでしょうか?

今後数年間は引き続き不確実な要素が多いと予想されますが、ミンテルが確信している事は、どんなに新たな状況に直面しても、消費者は適応し続けるということです。このことからも分かるように、絶えず変わり続け、進化していく消費者トレンドに後れを取らず、その変化に合わせてイノベーションを起こしていくブランドこそが、パンデミック後の世界でもその時代に合った存在であり続け、繁栄することになるでしょう。