ドイツのコスメ業界に変化が起き、新しいトレンドが次々と生まれています。本ブログ記事では、ドイツの美容業界において成長が見込める分野、また革新とトレンドの予測をご紹介します。

 

ビューティー&パーソナルケア(BPC)製品に対する消費者の支出は、新型コロナウイルスの感染拡大以来、大きく変化しました。ロックダウンでイベントが中止になったことを受け、販売額は減少しその結果、さまざまなコスメ製品の需要が低下しています。

コロナ禍を経てポストコロナの時代となった今、BPC業界の市場成長は主にインフレによる高価格で維持されています。つまり、一見市場が伸びているように見えますが、インフレの影響によるもので、実際にはコロナ禍以前のレベルに戻ることができていません。このためドイツの消費者の間では消費行動と美容ルーティンの両方に変化が生じています。コストパフォーマンスが最優先事項となり、ドイツのBPC製品購入者の半数が、BPC製品への支出を切り詰める必要性を感じ、最も低価格で購入するために価格を比較しながら店舗を数軒回っています。

参考:Germany Beauty and Personal Care Retailing Market Report 2023

ここでは、ドイツの美容業界における4つの重要なトレンドをピックアップしました。これらのトレンドを生かし、革新的な変化を起こすことで、ビジネスの存続可能性が高まることでしょう。

 

1. ドイツの消費者と家計の逼迫

コロナ禍における経済的制約に続き、インフレが経済と消費者の経済的回復を妨げています。節約と本当に必要なものだけを購入することが消費者の優先事項です。こういった背景がドイツのコスメ業界の成長を横這いにしている可能性がありますが、それでもこういった厳しい時代を生き抜き、更に成長を続ける道は残っています。BPC業界は、他の業界と比較するとインフレに強いことが実証されています。ドイツ人は、生活費がかさんで他の贅沢品に手が届かなくても、自分へのちょっとしたご褒美としてコスメや香水の購入を好む傾向にあるためです。このトレンドは2023年も続くと予想されます。

各ブランドは、ドイツの消費者の節約ニーズに応え、品質を落とすことなく費用対効果の高い選択肢を提供する必要があります。この点で、プライベートブランドの美容製品はドイツ国内で定評があり、手頃な価格でありながら高品質なため、生活費の急騰の中でも売り上げを伸ばしています。

 

2. オンラインショップの人気が上昇

新型コロナウイルスによるパンデミックはあらゆる業界に衝撃を与えましたが、ドイツのコスメ業界も例外ではありません。新しいトレンドが生み出されるとともに、消費者の行動や考え方にも変化がありました。

ロックダウンの間、オンラインショッピングは目を見張る成長を遂げました。配送の速いオンラインショッピングサイトは、長期間家にいることを余儀なくされた消費者の人気を集めました。便利なオンラインショッピングサイトの人気は新型コロナウィルスによるロックダウンが終わっても衰えず、各ブランドはオンラインチャネル拡大への投資を検討しています。

 

BPC製品を扱うドイツのオンラインショッピングサイトの例(出典:Müller Online Shop DE)

 

倫理観を気にする消費者:多くのドイツ人はオンラインショップでコスメを買う便利さを知っていますが、背景にある搾取的な労働環境や配送サービスが気候に与える影響にも意識を深めています。この結果、小売業者がビジネスの透明性を開示することに対する需要が高まっています。ドイツ人の成人の49%が倫理的な側面を重要な基準として小売業者を選んでいます。

必要最低限のものに絞る:パンデミックは、ドイツ人のコスメの買い方を変えただけでなく、日々の美容ルーティンや美容自体に対する考え方にも影響を及ぼしました。まず、美容・化粧品の使用時間帯を考えると、在宅勤務やフレックス勤務の人が増え、日々のセルフケアを朝や夜の決まった時間ではなく、好きなときに行えるようになりました。

ロックダウンの間、フルメイクは不要となりましが、このトレンドはコロナ禍を経た今も続く見込みです。日常的な美容・化粧品を必須なものだけに絞るミニマリストの思想が注目のトレンドとなりつつあります。シンプルな美容は支出を減らす有効な方法であり、このトレンドを下支えしている考え方です。

 

3. ドイツの消費者はサステナブルなBPC製品を支持している

昨今はこれまで以上に気候に配慮する消費者がドイツでも増えています。オンラインショッピングの環境的影響への意識が高まるにつれ、消費者は自分のニーズを満たすだけでなく、サステナブルで倫理を尊重した製品の提供をブランドに期待しています。

消費者とのコミュニケーションを大事にする:ブランドと小売業者が自社のサステナブルな取り組みについて透明性をもって伝えることが不可避の重要事項となってきています。グリーンウォッシングは深刻な問題です。ドイツ人の57%はエコフレンドリーな宣伝文句は「単なるマーケティング上の戦略であり、事実と違う点が多い」と感じています。ブランドは明確なメッセージを伝えるとともに、サステナブルな取り組みを具体的な証拠で裏付け、顧客の信頼を損なわないようにする必要があります。

 

L’Oréalは、2030年までの目標を定めた持続可能性への取り組みを発表しました。(出典:L’Oréal Groupe)

 

ドイツ人の環境意識が高いとはいえ、消費者にとってはやはり家計の逼迫は大きな問題です。高いインフレ率と経済的な不安により、ドイツ人の購買客は常にエコフレンドリーな商品を買い求めつつも、同時に安売りの機会やお金を節約する方法を探しています。美容ブランドにとって、柔軟な価格設定が消費者のサステナブルな選択肢の必要性と購入価格のバランスを取る解決策となるかもしれません。

 

4. 多様性(ダイバーシティ)の兆候

大半のドイツ人はBPCブランドの品揃えが充実していると感じていますが、急速な高齢化を受け、(2030年にはドイツ全人口の26.2%が65歳以上になる予測)、購買客は幅広い年齢層や様々な身体の特徴に対応する製品を求めています。それでも大半の製品は若い消費者を対象としており、シルバーエコノミーに関して言えばまだまだ成長の可能性があります。

ドイツの消費者の大多数が現状のBPC製品の選択肢の多さに満足しているものの、さらなる多様性(ダイバーシティ)と包括性(インクルーシブ)を実証する製品に対するニーズはあります。サステナビリティに関する宣伝文句と同様、ブランドの多様性キャンペーンが嘘っぽいと感じる消費者は少なくありません。ドイツ人の42%は製品の包括性を裏付ける証拠を企業が提示することを望んでいます。
参考:Germany Diversity in BPC Market Report 2023

 

すべての女性のための美しさを宣伝する「ダヴ・リアルビューティーの約束(Dove Real Beauty Pledge)」(Dove UK)

 

また、16~24歳の女性は、ほかの年代に比べるとすべてにおいて多様性を期待しています。多様性というと、年齢や体形が主な関心事項ですが、こういった若いターゲット層からは濃い肌の色や巻き毛へなどの身体的特徴を受け入れる多様性も注目されています。これは若い消費者のほうが、ブランドの多様性を重視して購入品を決めることを示しています。

しかし、サステナビリティなど他の項目と同様、値段もやはり基本的な判断条件です。ドイツのコスメ業界で成功を目指すブランドは、多様性と手頃な価格を両立させる必要があります。

 

消費者の美容トレンドに企業はどう応えていくべきか

インフレの進行にもかかわらず、ドイツのコスメ業界は成長しつづけており、各ブランドにとって大きな可能性を秘めていると言えます。競争力を保ち、ドイツの購買客を魅了し続けるには、消費者のニーズと趣向を考慮する必要があります。たとえば手頃な価格、コスパ、サステナビリティ、本格的な多様性への取り組みです。今後はブランドが消費者の期待を理解し、品質を維持しながらコスト効果の高いソリューションを提供することが重要となります。

各ブランドは、本記事でも紹介したような消費者の考え方や行動の変化に注目し、ドイツの購買客に合った魅力的な製品を手頃な価格で提供する必要があります。前述の通り、今や柔軟となった生活スケジュールや1日を通じたセルフケアに対応することも有効な手段となるでしょう。

 

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