トビー・クラーク

ヨーロッパ・中東・アフリカ地域(EMEA)リサーチのディレクター。英国の消費者心理とマクロレベルの消費者動向を追跡しており、ミンテルの多くのレポートシリーズを担当しています。

 

ヨーロッパ全土ではやっと家計の逼迫緩和の兆候が見られます。食品のインフレは続いているものの、光熱費はピークを過ぎ、大半の市場で徐々に下がると見られます。しかしインフレは2023年から2024年も危機以前のレベルまで戻るにはほど遠いようです。英国では、コアインフレが懸念されることから、イングランド銀行は利率をさらに上げざるをえません。これは国民の住宅ローンやクレジットカードの負担が増えることを意味します。

どの市場でも消費者購買意欲は2022年の最低水準から回復しました。消費者はまだ経済的な見通しに不安を持っていますが、最悪の時期は過ぎたと考えているという良い兆候が見られます。ミンテルアナリストによる消費者購買意欲のデータ分析によると、GDPの変化が消費者の信頼感に反映されるまでに少なくとも6カ月かかることが示されています。インフレの変化は急激ですが、消費者購買意欲への影響は小さく、短期間になるでしょう。

 

正しくバランスを取る:勝ち組ブランドの秘策

景気の回復によって、消費者がブランドに求めるものは確かに変わりますが、対応策についてはタイミングが重要です。ブランドのとる対応が早すぎれば無神経な印象を与えますが、遅すぎれば景気の回復がもたらすチャンスを逃してしまいます。

参考:The cost of living crisis(無料ダウンロード資料、言語:英語)

勝ち組となるブランドは、消費者が今現在求めているものを提供しつつ、裏側でしっかりと革新的な展開の土台を固めています。そして、消費者の信頼感が十分に高まって財布の紐を緩めたときにスムーズに舵を切ります。この方針転換のバランスをうまく取れないブランドは、消費者の考え方の変化に上手に対応する他のブランドに対抗できないかもしれません。本ブログ記事では、欧州の景気回復が始まった際に消費者の支出が変わると思われる4つのパターンを検討します。

 

1. 家計切り詰めから大きな買い物へ  

現在の状況

一部の消費者が家計の切り詰めを余儀なくされていることは事実です。それほど追い詰められていない人でさえ家計を見直しています。生活費が高騰する際には常にディスカウント店やプライベートブランド製品が人気を集めます。そしてここ2、3年、消費者は大きな買い物を差し控えています。 

今後

消費者購買意欲が戻り、消費者の安心感が高まれば、製品買い替えの頻度も高まります。家計が厳しくなると、冷蔵庫や洗濯機など、必須の電化製品が節約対象として上位になりがちです。しかし、消費行動が良い水準に戻れば、最初に買い替えの対象となるのもこういった製品です。

 

2. 安全な買い物から試験的な買い物へ

現在の状況

家計が逼迫すれば、有効性と機能性の優先順位が上がります。厳しい時期に「あるとより良い」程度のものは買えません。  試験的な買い物も避け、品質と有効性をよく知っている買い慣れた製品を買い続けます。この変化を求めない安定重視の考え方は、老舗ブランドが新規ブランドやプライベートブランドに対抗するのを助けることになります。 

今後

経済がゆっくりと回復するにつれ、新しいブランドや製品、コンセプトに挑戦したいと思う消費者が増えます。世界金融危機の後、老舗ブランドはスタートアップ企業による革新的な製品やサービスの波に襲われ、苦労しました。消費者が新しい製品に挑戦する意欲を取り戻す時期と重なったからです。これは老舗ブランドにとっては大きな試練となりました。

 

3. 日々の贅沢から気軽な支出へ  

現在の状況

「リップスティック効果」(不景気には口紅がよく売れるという消費者行動傾向)は侮れません。どんな経済状況にある消費者も、たまには気晴らしを必要とします。高所得者向けの市場ではもちろん高級ブランドが有利ですが、高所得者でなくても外食や高級スキンケア製品の代わりに高価なお惣菜を買うなど、贅沢品の出番は常にあります。 

今後

厳しい時期に派手な消費は下品に映ります。しかし景気が良くなれば、気軽な買い物の余地も生まれます。世界金融危機の後の経済回復期には、「楽しさ」を売りにした製品が大量に市場に出回りました。ロブスターや金箔をあしらったグルメなど、本格的なものから遊び心に満ちた大胆なものまで登場していました。同じような動きが今後も起こることが予想されます。

 

4. お買い得品から社会にプラスの影響を与える製品の購入へ

現在の状況

家計が逼迫している状況下では、サステナビリティや社会的責任の問題を考える余地はありません。消費者たちはこういった情報がまったく頭に無いわけではありませんが、値段や機能を重視するあまり、それ以外の要素が目に入らないのです。こういった状況では出費の節約と地球保護の両方を適える製品が最も有利となります。 

今後

生活に困窮している消費者は有効性と値段にまず注目します。いつの時代も製品にとって最も重要なのは価格と機能性ですが、金銭的な余裕ができるにつれ、消費者は社会にプラスの影響を与える製品や体験に少し高い金額を払い、自身が関心を持つ活動を応援するようになります。

 

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