ミンテルアジア太平洋(APAC)地域 トレンド&ライフスタイル統括本部長であるマシュー・クラッブは先日開催したウェビナー*において、サステナビリティの重要性と、それがアジア太平洋(APAC)地域の消費者の行動に与える影響について解説しました。約半数の消費者が環境にプラスの影響を与える活動について楽観視し、「今自分たちが行動を起こせば地球を救える」と考えている一方で、企業のサステナビリティへの取り組みについてはあまり信用していないことが判明しています。それでも消費者は、サステナビリティという点において、各ブランドが変化を起こすことに大きな役割を果たすと考えています。各ブランドにとっては消費者の信頼を獲得し、サステナビリティへの取り組みを他社から一歩リードするチャンスがあると言えます。

本ブログ記事では、前述のウェビナーのプレゼンターであるマシュー・クラッブが、各ブランドが消費者と効果的なコミュニケーションを取り、手頃な価格とサステナビリティの適切なバランスを保つ方法を考察します。

サステナビリティと製品価値の両立

ミンテルの世界消費者調査によると、APAC地域の消費者は、サステナビリティを予算、品質と同程度に重要視しています。この結果は、各ブランドが製品やサービスの情報発信に「サステナビリティ」と「製品価値」を同程度、考慮する必要があることを示しています。消費者は、各ブランドが明確なラベル表示でサステナビリティを伝え、その製品・サービスの環境への影響を明示し、消費者の帰属する地域に与える環境的なメリットの提示を期待しています。消費者と長期的な関係を築くには、信頼を得ることが重要であり、ブランドは訴求内容を裏付ける証拠を提示することが必須となっています。

 

 

サステナナブルな取り組みの数値化と
消費者を巻き込む重要性

「サステナビリティ」と「手に取りやすい価格」を両立するためには、各ブランドは、消費者にとって分かりやすく、短期的に達成可能と思える目標を設定することから始めるべきです。まずは、サステナビリティへの取り組みを数値化し、外部からの認証を取得することで、着実な前進をアピールできます。さらに消費者にサステナビリティに関する意思決定プロセスやコミュニケーションに参加してもらうことができれば、彼らの当事者意識を高め、信頼を得ることも可能です。サステナビリティの倫理的な面に注視し、サステナビリティへの取り組みが地域社会や経済にどう貢献するかを強調することも有効でしょう。

 

 

Farmyは、Encorp Strandモールの111平方メートルを占める都会型の垂直農場であり、マレーシア国内で初の垂直農場と言われています(Farmy/Facebookより)。

 

ブランドへの信頼と企業活動の透明性の確立

消費者の信頼を得るには「企業活動の透明性」が必須項目です。各ブランドは、サプライチェーンの監査を受け、原料調達から製造や廃棄物管理までのサステナビリティへの取り組みを開示することで、この透明性を示すことができます。現在、国際的に認められたサステナビリティの基準はないため、各ブランドが各地域で、または国際的に認められた認証の策定にリーダーシップを発揮できる可能性もあります。企業、NGO、行政、消費者が協働することで、サステナブルな社会に向けた革新的なソリューションが生まれ、各ステークホルダーにサステナビリティに対する責任感を持たせることもできます。

 

 

スターバックスコーヒージャパンは、コーヒー豆かすリサイクル活動推進の一環として、コーヒー豆かすをリサイクルした、たい肥で育てた植物を原料として使用したデザートの展開を開始しました

出典:スターバックスコーヒージャパン

製品価値に重点を置く

インフレと消費者の節約志向が強まっていることを受け、各ブランドには値上げの理由を透明性をもって説明することがますます求められています。耐久性、柔軟性、適応性、サステナビリティなど、その製品が価値を置くポイントを明示することで、消費者が製品の本当の価値を理解できるようになります。また、各ブランドは無料配送に伴うコストを正直に伝え、利便性、品質、倫理性のすべての両立は難しいということを説明すべきでしょう。また、会社の利益をサステナブルな取り組みや地域コミュニティに投資することで、ブランドの信用を高め、倫理的な事業運営への意欲を示すことができます。たとえば上海のアパレルブランドであるXiaozhuoは、原料、デザイン、縫製、包装、輸送にかかる費用をタグに明記することで、販売価格に透明性を持たせています。

 

各業界におけるサステナビリティと手頃な価格

さまざまな業界が消費者の期待に応えようとし、サステナブルな訴求や手頃な価格設定を取り入れています。食品・飲料業界では、地域の農家からの仕入れ、廃棄物の削減、代替タンパク質の模索などが注目されます。特に「廃棄物の削減」は、ブランドや企業間の協力を促し、革新的な対策につながっています。たとえば、果物の廃棄物を使ったアルコール飲料の開発を開始したブランドがあります。この方法は循環経済の理念に沿っており、さらに協力的なサステナブルな対策のきっかけともなりえます。つまり各企業は自社だけで対策を講じる必要はなく、他社や他の団体と一緒にソリューションを開発することもできるのです。

 

 

食品廃棄問題に対処するため、アルコール飲料ブランドのUgly Vodka(オーストラリア)は、傷のついた廃棄用のリンゴで高級アルコール飲料を生産しています。

出典:Ugly Vodkaウェブサイト

 

美容・化粧品業界では、各ブランドが独自のクラブの設立や製品のリサイクルを通じたコミュニティづくりに力を入れています。サステナビリティと価格のバランスを取ることで、ブランドは消費者のニーズに応え、価値提案を強化できるでしょう。

 

 

SminkArt(日本)は、未使用のメイクサンプルを子供のお絵描き用の水彩絵具にリサイクルしています(朝日新聞より)

 

ミンテルの見解

手頃な価格とサステナブルな取り組みのバランスをとることは、APAC地域のブランドが消費者の期待に応えるために対処すべきことですが、大変難しい課題が多くあります。これまで見てきたように、サステナビリティと製品価値に関するメッセージを同時に伝えることで、各ブランドはその製品の品質、優位性、社会的責任をアピールすることが可能になります。また、企業活動の透明性を伝え、消費者を巻き込み、各ステークホルダーとのコラボレーションを紹介することで、消費者の信頼を得ることができます。これは、各ブランドや企業の製品を消費者に進んで選択してもらえることにつながります。各ブランドは、各自設定したサステナブルな取り組みの目標に合わせ、国内原料の調達、循環経済モデルの模索、廃棄問題への対処にも注目すべきです。こういったことが実現されれば、各ブランドはサステナビリティと手に取りやすい価格帯の両立を実現し、消費者とともにサステナブルな未来の構築に貢献することができるでしょう。

*本ウェビナーはオンデマンド配信もしております。以下のリンクのお申込みフォームから情報を入力し、ご覧いただけます(言語:英語):https://www.mintel.com/events/navigating-affordability-versus-sustainability/

オンデマンドウェビナー一覧はこちら(言語:英語):https://www.mintel.com/mintel-market-news/apac-webinars/

日本語のミンテルブログ記事一覧はこちら:https://japan.mintel.com/blog