私たちは皆、睡眠を必要としています。睡眠関連の商品やサービスは、睡眠に関する文化や行動の変化に対応する必要に迫られます。この変化を利用して、企業は、睡眠に対する認識を「必要不可欠なもの」から、「生活習慣の重要な一要素として歓迎すべきもの」へとシフトさせることができます。 近年、世界の睡眠市場は急速な成長を遂げ、消費者が睡眠が健康やウェルビーイングと深く関連していることを認識するとともに拡大しています。しかし、この肯定的意識の高まりにもかかわらず、多くの人はまだ睡眠に満足できていない状態です。企業は、質の高い睡眠の重要性を理解するだけでなく、実際に質の高い睡眠を得られるように、消費者が求めている「睡眠満足」の提供に貢献できるはずです。 この記事では、睡眠市場において最も重要なトレンドをご紹介します。 睡眠市場の成長指標 コロナ禍以来、世界中の消費者がストレスの増加を報告し、それに伴ってライフスタイルへの継続的な変化をもたらしてきました。 アメリカの消費者のほぼ半数が、日常の生活習慣の変化が、睡眠の質の悪化に影響を与えていると感じています。この傾向は中国でも同様で、ストレスフルな世界情勢、運動量の減少、テクノロジー利用の増加などが、良質な睡眠を確保する上で大きな負担となっています。 2年前、ミンテルは生活習慣の変化が中国の消費者の睡眠に影響を与える2番目に重要な要因であると報告していますが、現在では1番重要な要因となっています。 この変化は、包括的な健康とウェルビーイングを目指すより広範なトレンドを反映しており、睡眠は、健康全般に影響を与える要素としてますます重要視されています。消費者は、睡眠がライフスタイルに与える影響や、逆にライフスタイルが睡眠の質に与える影響について、より意識するようになっています。 これに呼応して、中国の睡眠補助健康食品・サプリメント市場では、オンライン販売数量が過去1年間で38.3%増加しており、健康食品・サプリメントカテゴリー全般の成長を上回っています。ドイツでは 消費者の4分の1が、睡眠補助以外の効能をあわせ持った睡眠補助食品に魅力を感じており、 Z世代の消費者の間で特に関心が高まっています。注目すべきは、健康的な消化と良質な睡眠がもたらす効果が認識されていることで、ドイツの消費者の約半数が腸の健康と睡眠の関連性を認めています。 このような成長指標は、消費者が睡眠効果を期待していなかった製品に睡眠効果を付加するなどといった、複数のカテゴリーや機能にまたがる製品や消耗品への関心を喚起することができるチャンスがあることを示唆しています。そして、企業はこれをただ夢見ているわけではなく、現実として革新を進めています。例えば、ゲームと睡眠を融合させた「Pokémon Sleep」は、ポケモンの世界観の中で睡眠のトラッキングをサポートし、質の高い睡眠を達成すると報酬がもらえるモバイルアプリです。 「Pokémon Sleep」は、ユーザーが進捗に応じた報酬を得ることで、睡眠をゲーム化しています。 出典:pokemonsleep.net ミンテルの世界新商品情報データベース(GNPD)の調査によると、2023年1月から12月にかけて、ドイツででは植物由来またはハーブを謳った新製品開発(NPD)が、睡眠補助剤における他のどのカテゴリーよりも多く見られました。また、ドイツの消費者は従来の睡眠補助剤よりもハーブ由来の睡眠補助食品をやや高い割合で使用しています。 オーストラリアの飲料ブランド「Arkadia」は、L-テアニンやプレバイオティクスなどの機能性成分を加えた「Calming Chai」に、アシュワガンダのような植物成分を添加し、複数の機能を持つ植物由来の成分や製品に対する需要に応えています。 このような市場の多様化は、従来のOTC(一般用医薬品)睡眠補助剤から、総合的な睡眠健康を促進する製品への移行を示すもので、睡眠業界の企業にとって注目すべき動向です。このような効果的なイノベーションが関心を呼び、消費者が購入することで、企業と消費者の双方に利益をもたらすポジティブなフィードバック・ループが生まれます。 睡眠行動への消費者のエンゲージメントの高まりも重要な分野であり、この点については次のセクションで詳しく取り上げます。 消費者の睡眠トレンド 睡眠に関する認識はこれまでと変わりつつあります。消費者は生活リズムが乱されたことで、自身の睡眠について改めて考える機会を得ました。 消費者の眠りの質は? 消費者の睡眠満足度は、良心的な睡眠関連企業であれば夜も眠れなくなるほどに低い水準にとどまっています。どの地域でも、睡眠に満足している消費者は半数に過ぎません。このように睡眠の満足度が低い中、消費者が睡眠の質を向上させるイノベーションを歓迎する可能性は高いと言えます。 睡眠に対して、その他の生活習慣が及ぼすドミノ効果への認識が高まる中で、消費者は自らの経験や期待することに合わせてパーソナライズされたアプローチを求めています。 中国では、消費者は睡眠を改善する生活習慣の利点を認識しており、ほぼ4分の3が就寝前の入浴や足浴を「役に立つ」と答え、「実際に行ったことがある」と回答しています。日本の消費者の間でも就寝前の入浴は習慣となっていますが、睡眠に関する習慣と、睡眠に影響を与える要因となりうる、より広範な生活習慣は区別して捉えられている傾向があります。 ミンテルジャパンレポート「スリープマネジメント・トレンド」によると、日本では睡眠習慣だけを変えるのではなく、睡眠をより広範な健康やウェルネスに関する目標と融合して改善していくことに重点が置かれています。 睡眠改善のモチベーション 従来、睡眠に関するアドバイスは「7~9時間」ルールに基づいており、この時間に達していればよく眠れているとされてきました。しかし 最近の研究では、睡眠時間よりも睡眠の質、つまり早く眠りにつき、深く眠り続けられるかどうかが、生活全体の質やウェルビーイングに大きな影響を与えることが示されています。 幸い、これは消費者が現在睡眠に対して持っている認識を裏付けるものとなっています。 世界的に、消費者は睡眠に関して量より質を重視しています。アメリカの消費者の88%は、睡眠時間よりも睡眠の質を重視しており、ドイツの消費者の64%もこれに同意しています。同様に、イギリスの消費者は、十分な睡眠をとることは健康管理において最も重要なポイントだと考えていますが、健康管理のために睡眠を改善したと答えた人は3分の1以下にとどまっています。 質の高い休息に対する本能的な欲求は、消費者にとって強力なモチベーションとなっています。 イギリスと中国の消費者はともに、就寝前のスクリーンタイムを減らしたいと考えており、これは良好な睡眠衛生に向けた世界的なトレンドを示しています。これは、消費者が睡眠の改善を目的に生活習慣を少しずつ変化させていることを示しており、よりホリスティックな健康管理という大きなトレンドを反映しています。 このような生活習慣の調整にとどまらず、消費者は睡眠の改善によって、直接的な健康効果を得ようとしています。エネルギーの増加、肉体的・精神的健康の改善、気分の向上は、 アメリカの消費者がより良い睡眠を求める最も強いモチベーションとなっています。. その結果ミンテルは、単なる睡眠導入剤市場ではなく、「睡眠健康市場」の成長を目の当たりにしています。消費者は睡眠だけでなく、生活全般の改善も求めているのです。 企業は、睡眠の質向上に焦点を当てつつ、より広範な生活習慣要因や選択肢についても視野に入れて対応することができます。機能性食品・飲料、リラクゼーションアプリ、睡眠トラッキングから得られるパーソナライズされたインサイトなどは、研究の価値があるでしょう。例えば、睡眠トラッキング・改善アプリ「Sleepio」は、現在イギリスの国立医療技術評価機構(NICE)により推奨され、国民保健サービス(NHS)でも提供されています。 Sleepioは、ユーザーのカスタム入力とモニタリングを通じて、認知行動療法(CBT)の治療をカスタマイズしています。 出典:Sleepio.com 睡眠補助剤からより総合的な睡眠の健康へ これまでご紹介してきた睡眠市場のトレンドは、消費者がより総合的な睡眠の健康を意識していることを示していますが、この変化は、市販の睡眠補助剤市場の安定を妨げているわけではありません。実際、アメリカの消費者の半数が睡眠補助剤を使用しており、睡眠サポートを含む多機能鎮痛剤や風邪薬を選んでいます。 ドイツ市場も近年一貫した成長を見せており、 2027年までの予測では、鎮静剤、睡眠導入剤、気分を向上させるOTC医薬品が成長する見込みです。 睡眠補助剤市場の成長にもかかわらず、睡眠補助剤の有効性にはまだ懐疑的な見方があります。睡眠問題を抱えるドイツ人の半数以上が睡眠補助剤を使用していません。多機能性を持たせることで、慎重になっている人々の関心を呼び起こすことができます。消費者が睡眠の健康をより総合的に考えるようになるににつれ、企業は、睡眠の健康に対するよりホリスティックなアプローチを取り入れるようになるでしょう。 スリープ・テックのインパクト 睡眠に関するテクノロジーの進歩や健康・ウェルネス意識の進化に後押しされ、個人の睡眠の質への関心が高まっています。アメリカの消費者の3分の1以上が、睡眠の質をモニターするウェアラブル端末の使用に興味を示しており、ドイツの消費者の4分の1も試してみたいと考えています。 この関心が、睡眠体験の向上を目指すAI睡眠モニターのような新技術を生み出しています。市場のハイエンドに位置するアメリカのスリープ・テック企業「Eight Sleep」は、マットレスにシーツのようにフィットし、心拍数などの測定可能な身体の反応に基づいて温度を自動的に調節する製品を開発しました。 「Eight Sleep Pod」は、睡眠の質とモニタリングを強化する先進的なスリープ・テック デバイスです。 出典:eightsleep.com 「NightWare」という、使用に処方箋が必要な装置も、革新的な製品として登場しています。このデバイスでは、睡眠関連の健康問題を抱える人々に対してモニタリング技術を使い、健康状態や睡眠の質に影響を与える悪夢を検知し、ユーザーを悪夢から解放します。 睡眠が無意識下での活動であることを考えれば、眠っている間に働き続けるハイテクは魅力的かつ、非常に機能的だと言え、このようなイノベーションは消費者の注目を集めています。 世界の睡眠市場の次なる課題は? 生活習慣の変化と個人の睡眠の質に対する関心の高まりは、消費者が企業に対して睡眠の悩みへの回答を望んでいることを意味しています。 企業はすでに、ホリスティックな機能性食品・飲料から特殊な寝具テクノロジー、従来のOTC睡眠補助剤の革新まで、さまざまなソリューションを提供しています。 しかし、消費者の関心を引く余地はまだ残されています。消費者と企業は、より総合的に見た睡眠の健康というトレンドにシフトしており、この動きに乗り遅れないよう、同じ方向へ進んでいくと予想されます。 睡眠のグローバル市場には、見逃せないビジネスチャンスが残されています。 ミンテルの 健康・ウェルビーイングに関する市場調査をご覧下さい。 ミンテルの無料ニュースレター「Spotlight」にご登録いただくと、ミンテルのインサイトや新しいブログ記事、イベント情報などをメールでお届けいたします。 日本語版のニュースレターをご希望の方はinfojapan@mintel.comまでご連絡ください。