ファッションのカジュアル化は今に始まったことではありません。2010年代半ば以降には運動とレジャーを融合させた「アスレジャー」がファッション業界に革命を起こしてきました。しかし近年、消費者は日々のファッションにスポーツウェアをより頻繁に取り入れるようになっています。これはスポーツウェア市場の持続的な成長にもつながっており、フィットネスとファッションの境界線を曖昧にする動きもその追い風となっています。ミンテルの消費者調査によると、アクティブウェアを購入するアメリカの消費者は2022年以降増加しており、2023年には、アメリカの女性に最も人気の高い商品として、定番のTシャツ、ジーンズに次いでアクティブウェアが3位にランクインしています。ヨーロッパでは、ドイツ最大級のスポーツ小売販売ネットワークであるIntersportとSport 2000が、2022年に過去最高の販売額を達成しました。中国でも、同じくスポーツウェア業界のビジネスチャンスが拡大しており、今後も明るい市場展開が期待されています

 

では、ファッション性と機能性を求める需要の高まりにファッションブランドや小売業者はどのように対応しているのでしょうか?この記事で詳しく解説いたします。

 

 

スポーツウェア業界トレンド – フィットネスとファッションの融合に市場はどのように対応しているのか?

 

機能的なファッション

人々の働き方は変化しています。2023年末時点では、イギリスの労働人口の約半数がフルリモートまたはハイブリッド勤務をしています。同様のトレンドは世界中でも見られ、2022年にはアメリカの労働者の3分の1がほぼ常に、または完全に在宅勤務で働いているほか、カナダの被雇用者では4分の1弱がハイブリッド勤務をしています。このような傾向は当面、変わらないものと予想されます。ブラジルの労働者の4分の3以上は、生産性の向上という利点からハイブリッド勤務が理想的だと考えている一方、イギリスの労働者の半数弱は「今後はハイブリッド勤務の仕事のみを検討する」と回答しています。これまでオフィス通勤が基本だった働き方は、将来的には在宅勤務が基本となるでしょう。

 

消費者のワークライフをとりまくこうした動向は一見、スポーツウェア業界とはやや無関係のように思われますが、実際、仕事とワードローブには密接な関連性があります。近年、柔軟な働き方や在宅勤務が拡大したことで、多くの人々の労働生活に対するアプローチだけでなく、彼らのファッションの選択にも大きな変化が生じています。

 

これまで、消費者は仕事用の服と自宅用の服を容易に区別することができました。しかし現在、多くの自宅がオフィスとして機能し、職場特有の「形式」がますます薄れていく中、ミンテルのアメリカ消費者調査によると、特に男性は「汎用性が高く見栄えもよい」という条件付きで、着心地のよい服を仕事着として好む傾向が高まっていることが分かっています。また、汎用性は重要なポイントではありますが、着心地やスタイル以外の要素を追求する一部の消費者にとっては機能性も重要です。

 

自宅での運動やワークアウトは近年増加傾向にあります。イギリスでは、2023年2月時点でワークアウトに積極的な消費者の半数以上が自宅で運動をしており、アメリカでも同様の傾向が見られています。2023年には、積極的に運動をするアメリカの消費者のうち、ワークアウト設備のない自宅で運動をしている割合は60%にも上ります。消費者は仕事の合間・前後にワークアウトや運動を取り入れており、仕事とワークアウトとのシームレスな移行ができるアクティブウェアを強く求めているようです。これは世界的なトレンドにもなっており、中国の消費者では3分の1以上が「スポーツやレジャーウェアを購入する際は汎用性が重要」だと回答しています。ブランドはワークアウト時に機能的なだけでなく、職場でも仕事着として着用できる商品を開発することで、こうした需要にすでに対応しています。例えば、アメリカのファッションブランドAthletaと同社のシティパンツは、「仕事、遊び、その合間のすべてのアクティビティのために開発された」として売り出されています。消費者がファッションとスポーツウェアの区別をますます曖昧にとらえる中、ブランドや小売業者が成長していくためには、適応性や汎用性を求めるニーズの高まりをダイレクトに汲みとることが不可欠なのです。

 

 

 

スポーツウェアとウェルネス

アメリカでは消費者の3分の2が「アクティブウェアを着て毎日過ごしたい」と回答しており、アクティブウェアが単なるファッショントレンドではなく、ライフスタイルの選択肢となっていることがうかがえます。アクティブウェアは特にアメリカの女性を強く惹きつけており、彼女たちは着心地のよいアクティブウェアを着て生活したいと考えているようです。またメンタルヘルス意識の高まりにより、ホリスティックなセルフケアや食事美容ルーティン・ファッションなどを通じて快適さを求める動きもますます大きくなっています。しかし、スポーツウェア市場に影響を与えるウェルネストレンドは「快適さ」の追求だけではありません。

 

ミンテルのより詳細なファッション市場調査を閲覧する

 

ドイツではメンタルヘルスやウェルビーイングがますます注目を浴びており、ヨガ、ランニング、ハイキングといったウェルネス関連のアクティビティに特化したスポーツウェアへの関心が高まっています。スポーツウェアブランドは、ファッション以外の観点からも健康的なライフスタイルを送るためのアドバイスを広く提供していくことで、ホリスティックなウェルネスや、より健康的なライフスタイルを追求する消費者をサポートすることができるでしょう。例えば、ナイキのNike Training Clubは、ガイド付きの瞑想などを通じて身体の健康だけでなくメンタルヘルスも促進できる動画やアプリを提供していますが、ブランドはこうした業界大手を参考にすることができるでしょう。

 

ウェルネストレンドでは、サステナビリティがますます重要視されています。中国では、かなりの割合の消費者が「環境にやさしい素材を使用したスポーツウェアには高い金額を支払っても構わない」と考えています。また、ドイツでは4分の1がサステナブルなスポーツウェアに関心を寄せており、Z世代ではこの割合がさらに高くなっています。スポーツウェアブランドはこうした需要に寄り添うために、サステナビリティを最優先事項として掲げていくべきでしょう。中古市場や循環型ショッピングなどの活用を推奨する取り組みやサステナビリティ専門家との提携、レンタル・修理サービスの導入などはドイツのスポーツウェア業界ですでに成功していますが、消費者の間でサステナビリティの優先度が高まっていることを踏まえると、他の市場でも成功が期待できるでしょう。

 

ラグジュアリーなレジャーウェア

アスレジャー業界が台頭する以前、スポーツウェアを家の中で着るというのは多くの人にとって体調不良の場合に限られたものでした。しかし、こうした常識はすっかり変化し、ジムに行く時だけスウェットパンツをはくといった想定はもはや時代遅れとなっています。ミンテルの最新の消費者調査によると、調査対象となったイギリスの消費者のうち、半数近くが自宅でスポーツウェアを着用しています。また、スポーツウェアから影響を受けやすいのはカジュアルファッション市場だけでなくなっており、最近では高級ファッションブランドもスポーツウェアやレジャーウェアの要素をコレクションに取り入れており、スポーツウェアがアパレル業界のあらゆる側面で活用されていることが明らかとなっています。

 

世界のさまざまな高級ブランドが、スポーツウェアからインスパイアされたラインナップを発売したり有名スポーツブランドとコラボしたりすることで、アスレジャー市場トレンドを積極的に取り入れ、ファッションと機能性を融合させるようになっています。2022年には、高級ブランドのフェンディヴェルサーチが、快適さとスタイリッシュさの両方を求める消費者ニーズに応える形で独自のアスレジャーアイテムシリーズを発売しました。また他の高級ブランドもスポーツブランドとコラボすることで、スポーツとファッションの壁を乗り越えようと試みています。例えば、ドイツでは高級ファッションブランドグッチが大手スポーツウェアブランドのアディダスとコラボし、アクティブウェアのコレクションを発表しました。機能性とファッション性を兼ね備えた商品を提案することで、高級ファッションブランドはより身近な存在として、一般消費者にもその魅力をアピールできるでしょう。中国でも高級アスレジャートレンドは広がっており、例えば、グッチ北京で湖畔ハイキングキャンプを主催するという大胆なイベントにも挑戦しています。こうした例からも、スポーツやレジャーウェアが高級ファッション業界で欠かせない存在となりつつあることが示唆されています。

 

ミンテルとともにフィットネスファッションの未来を見据える

ここ数年、世界のスポーツウェア市場トレンドは消費者のライフスタイルの移り変わりを反映し、変化しています。働き方も変化し、これまでフォーマルだった仕事環境はよりインフォーマルなものになりました。健康やウェルネスへの注目度が高まったことで、消費者のワードローブには機能性や快適さが強く求められています。セルフケアが重要性を増していますが、多くの消費者にとってそれは「快適さ」を意味するのでしょう。
スポーツウェアがファッション業界でますます重要な要素となりつつあることからも、カジュアルファッションに対する消費者の期待まだまだ続くと予想されます。美容業界にも大きな影響を与えたパリオリンピック以降、スポーツに対する消費者の関心、そこから派生したスポーツウェアへの関心も今後さらに高まっていくと予想されます。オリンピックによる後押しがなかったとしても、有名スポーツウェアブランドや高級ファッションブランドはこの商機を活用し、機能性とファッション性を融合させることで消費者の需要を満たしていくことができるでしょう。

 

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