インフルエンサーマーケティングはまだ比較的新しい分野ですが、急速に成長しています。イギリスでは、BPC(ビューティー&パーソナルケア)の市場価値は2027年に100億ポンド(日本円にして約1兆8,800億)以上に達するとミンテルは予測しており、インフルエンサーマーケティングはこの市場でますます重要な役割を果たすようになると考えられています。インフルエンサーマーケティングが成長を続けるにつれて、BPCメーカーにとっては、消費者にリーチし、関係を深めるための効果的な方法となっていくでしょう。

本記事では、BPC業界のSNS上で、インフルエンサーやメーカーが活用している様々なトレンドや戦略について掘り下げます。また、インフルエンサーマーケティングがBPC業界の今後の展望を大きく形成すると予想されることについても考察します。

 

インフルエンサーマーケティングとは

インフルエンサーマーケティングとは、インフルエンサーとメーカーが協力して、製品やサービスを宣伝するマーケティング手法の一種です。インフルエンサーとは、一般的にSNSで多くのフォロワーを持つ個人のことです。インフルエンサーは多くの人に伝え、関心を引き、しばしば業界の専門家とみなされ、消費者の購買決定を左右します。

 

インフレ率の上昇がインフルエンサーマーケティングの台頭を支えた

インフレの高まりは、BPC業界におけるインフルエンサーマーケティングを主要なポジションに押し上げました。経済の不確実性と世界的な紛争により買い控えが起こる中、BPC市場では購入前に慎重に下調べする人が急増し、インフルエンサーマーケティングはこれに効果的に対応しています。さらに、多くの企業が広告予算やメディアへの支出を縮小しているため、インフルエンサーマーケティングはより安価な代替手段としてさらに魅力的です。

 

インフレにより、消費者は美容製品を購入前に慎重に下調べしている

SNSや美容インフルエンサーのレビューは、特にコストの上昇や製品が溢れているなか、BPCの購買行動の中で説得力ある地位にあり、重要な役割を担っています。美容インフルエンサーをフォローしているアメリカの3人に1人以上が、新製品を購入する前に彼らのレビューやおすすめを見ておりイギリスの消費者の実に5人に3人が、フォローしているインフルエンサーは、彼らが取り上げている分野の専門家であると考えています

 

 

美容や身だしなみのアドバイスに対する信頼の欠如や、消費者の価格重視志向よってBPC業界が脅威にさらされていることを考えると、メーカーは透明性を保ち信頼できる美容インフルエンサーと提携することで、本物の製品レビューを提供する機会を得られます。アメリカでは、メーカーは美容の「専門家」と提携し、その主張に信憑(しんぴょう)性を持たせています。例えば、Olayは皮膚科医でTikTokインフルエンサーのAlexis Stephens医師とDaniel Sugai医師と提携し、スキンケア製品の品質と効果について話し合いました。Alexis Stephens医師とDaniel Sugai医師は、Olayのウェブサイト用に製品セットを企画しました。この例は、専門家かつインフルエンサーが美容分野で持つパワーと消費者からの支持力を活かしたものです。

 

 

メーカーや小売業者は、否定的なレビューと肯定的なレビューの両方を紹介することで、信頼性を高めることができます。理由は、消費者が商品訴求の信頼性を独自に判断できるようになるからです。インフルエンサーや美容専門家は、価格重視志向の消費者に貴重なアドバイスと安心感を与えることができるため、消費者の信頼を取り戻し、この厳しい経済状況を乗り切ろうとするBPCメーカーにとって理想的なパートナーとなります。

またインフレの影響により、ハイエンドなビューティー製品については、消費者にとって事前の下調べがさらに重要になるでしょう。‌ミンテルのレポートによると、ハイエンド部門は、特に メイクアップフレグランス‌などのカテゴリーで好調でした。これは、厳しい経済情勢にもかかわらず、消費者が自分へのご褒美としてささやかな贅沢をしたいと考えていることを示唆しています。しかし、消費者はベストな価格で購入しようとしているため、購入前の下調べはなおさら重要になるのです。

SNSを利用する美容製品購入者のうち16%は、プレミアム製品の安価な代替品を探すために美容インフルエンサーのアドバイスも参考にしています。こうした行動は、特に16-24歳の回答者に多く見られます。これは、「代替品」のメーカーや小売業者にとって、SNS上で自社新製品をアピールする機会を生み出す一方で、プレミアム・ブランドにとっては、自社の高価格を消費者に納得させねばならないというプレッシャーとなっています。消費者は価格に敏感で価値あるものに支払いたいと考えており、高級品の安価版が良いものであれば受け入れるでしょう。

消費者は、美容インフルエンサーとSNSを介して新商品を知る

美容インフルエンサーとSNSは、消費者が新たなBPC製品を見つける際に重要な役割を果たしています。ミンテルの調査によると、消費者の5人に1人が、SNSを介して新しい美容メーカーや製品を見つけたり、知識を得たりしています。この状況は16-24歳の女性では5人に2人に上り、新商品を認知させるためにSNSで露出する重要性が浮き彫りになりました。このトレンドをうまく利用したブランドの例として、Youthforiaが2023年に発売したDate Night Foundationが挙げられます。SNSチャンネルを活用し、このファンデーションをつけたまま一晩眠ってしまってもお肌は大丈夫、というメッセージをユーモアを盛り込みつつ伝え、製品のユニークな特徴を強調し、ブランドの認知度を高めました。

BPCインフルエンサーが製品発掘の一翼を担うという点では、2023年に絶大な人気を博した#GRWM(get ready with me: 私と一緒に出掛ける準備をしよう)は引き続き支持されています。GRWMはメイク、服、アクセサリー選びなどお出かけまでのおしゃれの過程を楽しむコンテンツです。GRWMにあやかろうとメーカーは美容インフルエンサーに新製品サンプルをプレゼントし、インフルエンサーが使用シーンを動画で紹介すると、多くの人が目にすることになり、製品の認知度が高まります。視聴者は、#GWRM動画で製品の使用方法を知り、仕上がりを確認することもできます。このようなインフルエンサーを用いた方法は従来のマーケティングと比較して、信憑(しんぴょう)性と親近感のあるコンテンツが生み出され、結果ターゲット視聴者の共感を得ることにつながります。

 

購入者は、美容インフルエンサーや#GRWMコンテンツを頼りに商品を発掘している。出典: Getty Images.

 

多くのインフルエンサーマーケティング契約はアフィリエイト報酬(成功報酬型)に基づいており、製品紹介の際にクーポンコードを付けています。インフルエンサーは、宣伝する製品の購入を促すクーポンコードを拡散する上で極めて重要な役割を果たしています。例えば、メーカーがインフルエンサーと提携した場合、ドイツ人の5人に1人が割引クーポンを使用しています。この戦略は、BPCインフルエンサープロモーションの直接的な効果を測定するだけでなく、クーポンコードが購入を促すうえで効果的なツールであることを示しています。

 

BPC業界での企業姿勢:美容インフルエンサーとSNSの役割

日進月歩のBPC業界では、消費者の行動が常に業界を再構築しており、近年では特にDEI(多様性、平等、包括性)の表現に関して著しい変化があります。差別・区別なく様々な人を対象とした広告を出している製品を購入したり、多様性を考慮したBPC製品であるか否かを調べることは、意義ある行動として多くの消費者に支持されています。同様に、メーカーのSNSとインフルエンサーのコンテンツも倫理的に正しい(多様で包括的である)ことが求められています。

多様性を理解し取り入れるために、各社は多様なアイデンティティを反映し、魅力的なコンテンツを作成できる美容インフルエンサーと提携しています。注目すべきは、アメリカの黒人消費者の59%、ヒスパニック系アメリカ人消費者の58%が、SNS上で自分と同じ肌の色をしたBPCインフルエンサーをフォローし、おすすめ商品を参考にしているということです。メイクアップブランドFenty Beautyは、インフルエンサーがインスタグラム上で、豊富な色合いのファンデーションとバーチャル・シェード・ファインダー(バーチャルで自分の肌の色に合ったファンデーションを確認することができるツール)を紹介しています。他のエスニック・マイノリティにとっても、バーチャル試用やスキンケア診断ツールのような体験型ツールは、魅力的と思われます。つまり、メーカーは包括性を尊重し、様々な肌の色に対応するツールを前面に出し、多様な消費者を惹きつける必要があります。

認知度アップと、多様性や包括性の表現において、インフルエンサーの影響力は多大です。SNSを利用している美容・グルーミング製品購入者の16%が、自分の外見について人目を気にしていることを認めており、この数字は16-24歳では29%に上ります。このような状況の中、美容インフルエンサーは消費者が不安を感じず、自分の外見に自信を持つよう、SNSを通じてサポートできる特別な存在なのです。2023年には、より包括的で現実的なオンライン・ビューティの状況に向かう心強い一歩が踏み出されました。イギリスのオンラインショップCult Beautyの広告におけるレタッチ(画像修正)禁止や、Estridのようにメーカーがソーシャル・メディア・コンテンツで一貫して多様なモデルを起用するような取り組みが行われ、非現実的な美の基準を壊し、消費者の信頼を確立しています。

こうした取り組みは、SNS上のコンテンツがしばしば大きく加工・編集されているために引き起こす視聴者たちの自分の容姿などに関するコンプレックスに対処する上で極めて重要です。BPCのインフルエンサーは、現実的な経験やフィルターを通さない画像を共有することで、美の基準を再構築し、消費者の自己肯定感を回復させ、これまで疎外されていた声を尊重する影響力のある存在となりうるのです。

 

リアルとバーチャルの融合:美容ブランドはどのようにテクノロジーを取り入れているか

インフルエンサーをフォローしている消費者の半数以上が、彼らのバーチャルリアリティ・コンテンツの視聴に興味を持っています。ミンテルは、仮想現実(VR)と人工知能(AI)への関心の高まりは、美容・グルーミングメーカーが消費者とどのように関わるかを再定義すると予測しています。2021年、プラダはフレグランスの発売をサポートするため、従来のインフルエンサーから、キャンディと名付けられたバーチャルモデルを起用したプロモーションに焦点を移しました。このCGアバターは、プラダのブランド価値をコスト効率よく体現するために、慎重に作られました。この流れを受けて、M&Sも2022年にCGIとARを使ったバーチャルインフルエンサーをInstagramに登場させました。ミンテルは、VRとAIがさらにダイナミックなバーチャルインタラクションの開発に拍車をかけ、現実とデジタル空間の境界線がさらに曖昧になると予測しています。

 

 

ミンテルとともに未来を見据える

美容業界は、SNSとインフルエンサーマーケティングがデジタル時代にもたらす変革と影響を認識しています。優秀なインフルエンサーと協力して、リアルで親近感の持てるコンテンツを提供することで、メーカーは消費者とのつながりを築き、商品認知を促し、非現実的な美の基準を払拭(ふっしょく)することができます。さらに、AIとVRの出現は、美容メーカーにテクノロジーに精通した消費者の注目を集め、ファンを増やすきっかけを広げています。