フードサービスにおいて、サブスクリプションサービス戦略の存在が大きくなっています。アメリカでの事例を基に、その最新動向と今後についてご報告します。

サブスクリプションを導入するサービスの急増

10年前、サブスクリプションは新聞購読や会員制ジムの利用など限定的なものでした。しかし現在では、映画鑑賞からラグジュアリーな家庭用品に至るまで、あらゆる商品が月単位で定期購入をすることができます。コロナ禍後に消費者のサイトアクセスが増加することを見込み、フードサービス業界の大手もサブスクリプションサービス導入に乗り出しています。

市場の動向

2022年2月に報告したミンテルトレンドでは、Sweetgreen(スイートグリーン)社が米国で試験的に運用していたサブスクリプションプログラム、Sweetpass(スイートパス)について取り上げました。同年1月より開始された同プログラムは、顧客がアプリやウェブサイト上で注文する際に10ドルを先に支払うことで、その後の1カ月間、一日一回の食事が3ドル割安になるというものです。Sweetgreen社の狙いは、年始めにこのプログラムをスタートさせることで「新年の抱負」として生活改善を誓う多くの既存顧客と潜在顧客の需要に応える、というものでした。当初の試験運用期間は1カ月間の予定でしたが、この期間限定の運用が好評だったことを受け、地域限定(コロラド州)で同プログラムの試験的運用を継続することにしました。2023年4月、同社は「Sweetpass」の名前で無料および有料のロイヤルティプログラムの全米での展開を開始しています。

 

出典:sweetgreen社

 

米カフェチェーン、Panera Bread (パネラブレッド)は、無制限の年間飲料サブスクリプションサービス「Unlimited Sip Club (飲み放題メンバーシップ)」を強化しています。ミンテルは2020年3月にPanera Breadの最初のプログラムについて報告しました。このプログラムは、まずコーヒーと紅茶のみをサブスクリプションプログラムのメニューとして開始しましたが、その後ブランドの顔でもあるフレーバー付きエナジードリンク等も加えたメニューに変更しました。2022年夏、同社はサブスクリプションがどれほど頻繁に利用されるかを把握するため、新規会員に一カ月間の無料サービスを提供し、この運用モデルが長期的なサービスとして成功するかについての調査を行いました。

出典:Panera社

顧客は前もって費用を支払うことと引き換えに、1年間飲料を割引価格で購入することができます。同社によると、商品の購入の4分の1はUnited Sip Club 会員による購入となっています。顧客からの信頼獲得と非飲料製品の売り上げ向上に貢献しているこの年間サブスクリプションは、良い成功例と言えるでしょう。

ロサンゼルスのコーヒーショップであるGo Get Em Tigerも同様に、メンバーシップの導入を試験的に開始しました。顧客は週13ドルで、どのGo Get Em Tiger店舗でも一回無料のドリンクを飲むことができる「GGET Unlimited プログラム」に申し込むことができます。また、5ドルを追加で支払うことにより、サブスクリプションへアップグレードすることができます。このサービスも、ロサンゼルス郡内のすべての店舗において利用することが可能です。

このメンバーシップはPanera Breadのような他のロイヤルティプログラムと比べ高価ですが、近所や職場近くのローカル企業をサポートしたいと考えている人にとっては魅力的です。GGET Unlimited プログラムは、地域貢献型のビジネスが顧客へサービスの継続的利用を促す上で、信頼感を増し繋がりを深めるという手段における好事例と言えるでしょう。

 

出典:Go Get Em Tiger 

 

ミンテルの見解

良くも悪くも、私たちの多くは習慣にとらわれた生き物です。職場でも家でも、多くの消費者がコーヒーや軽いランチのための行きつけの店を持っているでしょう。消費者の立場からすれば、食事や飲み物が割引や無料となるサブスクリプションプランはとても魅力的です。ミンテルの最新レポート「フードサービス ロイヤルティレポート、2022年」によると、レストラン利用者の55%がロイヤルティプログラムに参加しており、48%がサブスクリプションプログラムを提供するレストランの増加を期待しています。顧客にとってサブスクリプションプログラムは、行きつけの店の利用をさらに保証する感覚もあるでしょう。

実際に、これらのサブスクリプションプログラムは顧客の訪問頻度と平均注文額を押し上げています。仮に顧客が無料コーヒーのようなサービスを貰えるなら、彼らはそれと一緒に朝のマフィンを買うかもしれません。そして、週に1度ではなく2度は訪れるようになる顧客や、コワーキングスペースとして利用するようになる顧客が増えるかもしれません。

次に何が起こるか

現在、サブスクリプションにはピークが訪れています。ミンテルの「グローバル消費者トレンド2023-意図を持った消費」によると、消費者は目の前のニーズを満たす事を重視しており、その他の支出に関してはより慎重な行動を取っていることが明らかになっています。失業率の低下が消費を刺激してはいますが、経済情勢の危うさは続いています。今後、もし金利の上昇で人員削減が促進されれば、必然的に家計の引き締めが起こり、毎月1件あたりに費やす3ドル、5ドル、10ドルのサブスクリプション費用は削られやすいと言えます。費用別のプランが用意されたサブスクリプションは、顧客がプランのダウングレードをすることで支出を減らせることから、ロイヤルティプログラム自体からの退会を妨げる可能性があるでしょう。

【参考】
「グローバル消費者トレンド2023」はこちらから無料でダウンロードしていただけます。