アジアの膨大な人口がビジネスチャンスと課題を生む

45億を超える人口が集まるアジアは小売業界にとって巨大市場となっており、小売店やEC業者に幅広いビジネスチャンスを生み出しています。中国の消費者市場がこの地域の重要な部分を占める一方、アジアの小売市場全体も、主に同地域の膨大な人口や巨大都市の急速な台頭、都市化圧力の高まり、テクノロジーへの革新的な対応などに追い風を受け、かつてない成長を見せています。

こうした成長により、小売業の今後の展望が再定義されつつあるだけでなく、不動産価格の高騰やスペースの有効活用といった独自の課題も生じています。このような課題に対し、テクノロジーが今重要な役割を果たしています。eコマース、デジタル決済、物流におけるイノベーションは、利便性や効率性への高まる需要に対応しはじめています。小売業者はテクノロジーを活用してオンラインからオフラインへのシームレスなO2O体験を提供し、都市部の消費者のスピーディなライフスタイルに対応しながら、消費者の元までサービスを直接届けています。

 

アジアにおける小売の進化:「ニューリテール」とデジタル化

「ニューリテール」というコンセプトは、特にアジアの急速な都市化やデジタル変革に後押しされ、アジアの消費者体験に革命をもたらしています。人口が農村から都市部へと移動し、物流上の新たな課題も生じ始める中、変化するアジア太平洋地域の消費者のニーズに「ニューリテール」のコンセプトによる対応が迫られています。この「ニューリテール」のモデルは買い物だけでなく、金融や交通機関、エンターテイメントなどの消費者サービスにも波及しています。

この変革の主導者はアリババやJD.comなどの中国eコマースの大手であり、彼らはオンラインとオフラインのショッピング体験を一つに統合しようと試みています。アリババが、LazadaやインドのオンラインスーパーマーケットBigbasketなどのeコマースプラットフォームをはじめとするアジア全域のさまざまな分野に資金投資していることからも、同地域全体に「ニューリテール」を拡大しようとする同社のコミットメントが垣間見えます。中国のスーパーマーケットなどの一般的な小売店も、こうした変化に対応しなければいけません。同様に、JD.comの東南アジア市場への投資も、同地域における中国eコマースの影響力の高まりを示唆しています。

 

一つの地域、多くの市場

「国際的なローカリズム(International localism)」は東南アジアの消費者トレンドの一つです。オンラインショッピングが一般化したことにより、消費者は国境を越えて買い物をすることが可能になっています。実際のところ、中国の消費者はすでに世界各地、特にアジア太平洋地域のさまざまな国からオンラインショッピングをしています。アリババによると、2017年の「独身の日」に行われた14億8,000件の買い物取引では、全14万ブランドのうち6万を占める海外ブランドの取引が大半を占めていました。さらに、ミンテルの調査によると、輸入食品を購入する中国のオンライン消費者の5人に1人が日本と韓国からオンラインで買い物をしています。一方、中国以外の消費者、特に東アジア・南アジアの消費者はeコマースの大手企業から購入しています。

 

アジアの小売におけるテクノロジーの商機

セキュリティスキャンやキャッシュレス決済など、小売におけるテクノロジーの導入が東南アジアの消費者習慣を変化させつつあります。ミンテルが実施したアジアの消費者のデジタルトレンドに関する調査によると、インドネシアとタイの消費者の多くが、食事の事前注文や美容などのさまざまなサービスの利用にスマートフォンを活用しています。 

しかし、こうした中でも人間的な要素は引き続き重要で、中国の無人コンビニBingoBoxが採用する遠隔サポート機能にもそのことが表れています。新たな通信技術や無人店舗、キャッシュレス決済などを組み合わせることで、小売業者はこれまで以上に多くの消費者に向けてサービスを提供できるようになっています。

今後、eコマースは飛躍的に成長し、アジア太平洋地域の経済成長を担う重要な要素として地域全体の消費者の消費パターンを形成していくと予想されます。 中国のeコマース市場はすでに同地域内でイノベーションをリードする中核的な存在となっており、世界的にも影響力を増しています。

 

小売 + エンターテイメント = リテールテイメント

各ブランドは、消費者を魅了する体験への投資にますます力を入れています。「リテールテイメント」と呼ばれるこの取り組みでは、小売とエンターテイメントを融合させ、小売店舗にさまざまな娯楽や楽しみを取り入れることで、思い出に残る体験を提供しています。こうした斬新な小売戦略は、消費者が特定のブランドを他のブランドよりも好んで選ぶ十分な理由にもなりえます。

ブランド間パートナーシップの例では、中国で行われたファーストフード小売店KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)とビデオゲームCrossFireのコラボレーションがあります。このコラボでは、カーネル・サンダースがゲーム内キャラクターとして登場したり、KFCのメニューがゲーム内アイテムとして使用できるようになりました。またオフラインでは、コミュニティ密着型イベントとして、プレイヤーが同じKFC店舗内にいる他のプレイヤーと対戦できる機会が設けられました。上海にあるKFC実店舗ではオンサイト対戦も開催され、CrossFireの上級プレイヤー2人が「Ultimate CF King」のタイトルを争って対戦しています。同イベントは中国の複数の人気プラットフォームでもライブ配信されました。

また、レゴは2021年、マレーシアで最初の「リテールテイメント」旗艦店を立ち上げました。革新的なレイアウトを採用した店舗には、商品の販売のほか、新たな「発見」や大切な「遊び」の要素が盛り込まれています。 

小売業へのデジタルテクノロジーの導入、さまざまな消費者サービスの一体化、小売とエンターテインメントの融合といったこれらのトレンドは、中国におけるeコマースのイノベーションやより統一された消費者体験を求める需要の高まりに大きく後押しされ、小売業界の今後の展望を再定義していくと予想されます。

 

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