シュリンクフレーションはそれほど新しい現象ではありません。用語としては2010年代後半から2020年代初頭、特に景気が不安定になり、インフレ率が高まった時期に広く普及しました。しかし現在のシュリンクフレーションがこの時期と異なる点は、戦略としてシュリンクフレーションがますます注目を集めていることでしょう。

 

20248月現在、TikTokではハッシュタグ「#shrinkflation」が8,600万回以上再生されており、ユーザーはシュリンクフレーションを戦略として取り入れているブランドや、コスパを最大化する買い物のコツなどを情報共有しています。こうした消費者意識の高まりにより、慎重で賢い購買習慣へのシフトがますます進んでいます

 

ミンテルでは、ブランドが複雑なシュリンクフレーションをどのように切り抜けていくことができるかを探ります。世界の食品・美容業界における革新的な戦略を掘り下げることで、貴社が消費者のニーズや好みに合わせてブランドメッセージを洗練させるお手伝いをいたします。コスト上昇に直面する今、ブランドのレジリエンスを高め、厳しい市場環境において優位に立つ方法をともに学びましょう。

 

シュリンクフレーションとは?

「シュリンクフレーション」は「shrink(縮小)」と「inflation(インフレーション)」を組み合わせた造語で、企業が価格を据え置いたまま、またはわずかに値上げしながら商品サイズや内容量を縮小させるという、一見わかりにくいものの非常に有効な戦略です。こうした「ステルス値上げ」は時間をかけて徐々に行うことで、消費者にも気づかれにくいのが特徴です。食品・美容業界ではこういった戦略がますます一般的になっており、ブランドはあからさまになりすぎることなく、かつ効果的に値上げを行うことができるようになっています。

 

シュリンクフレーションは合法か?

シュリンクフレーションは違法ではないものの、倫理的にはグレーゾーンといった印象です。商品サイズのわずかな縮小について法的な告知義務はありませんが、消費者にわかりやすい情報共有がなされなければ、誤解を招く詐欺的なマーケティングだとみなされることは想像に難くありません。

 

しかし、食品・美容業界をはじめ、インフレ圧力により利益率が大幅に低下しつつある業界では、シュリンクフレーションが必要な戦略としてますます認識されています。消費者の信頼を維持するための鍵は、「透明性」にあります。ブランドがこうした変化を誠実に伝えることができれば、消費者の信頼を維持しながらも、コスト上昇という困難を乗り越えていくことができるでしょう。

 

食品業界におけるシュリンクフレーションとインフレに対する消費者の意識

イギリスでは、インフレ率の高まりにより消費者は購買習慣を見直し、廉価版ブランドに買い替えるなど、より価値重視の消費行動を強めていますイギリスの消費者の10人に3人以上は「今後ディスカウントストアでの買い物を増やす予定だと回答しており、また多くの消費者がストアブランドの商品をより購入したいと考えています。一部の食品ブランドはコストの増分を値上げとして消費者に転嫁している一方、その他のブランドはシュリンクフレーションを活用することで、インフレ圧力が続く中でも価格帯を維持するために、商品のサイズ変更に取り組んでいます。

 

ミンテルのUK Attitudes towards Food Packaging Market Report 2023でも触れたとおり、包装資材のコスト上昇により、メーカーはパッケージのさらなる軽量化・縮小化を迫られており、こうした状況がパッケージ業界に対するニーズを新たに生み出しています。ブランドの持続的なコスト削減を支えるため、パッケージメーカーにはより柔軟かつ協力的な対応が求められています。

 

ミンテルの調査によると、一部のチョコレートブランドは、シュリンクフレーションを採用することで販売数減少を相殺しようと取り組んでいます。例えば、一般的なチョコレートカテゴリー(チョコレートバー、板チョコ、袋入りチョコレートなどの食べきりサイズ/シェアサイズを含む)では2021年から2024年にかけて、1商品あたりの平均販売容量が101.5gから98gへと減少しており、サイズにして3.5%低下しています。一方、値上げをせずにコスト増分の帳尻を合わせるため、より大幅にサイズダウンした商品もあります。

 

シュリンクフレーションの主な例として話題になったものでは、Galaxyが同社のチョコレートバーを10%縮小させたほか、Cadbury Dairy Milkはシェアサイズの袋入りチョコレートを、Quality Streetはバケツ入りチョコレートの内容量を減らしています。消費者の多くはチョコレートのサイズダウンに肯定的な反応を示しており、イギリスの消費者の半数は「お気に入りのチョコレートが値上げするよりも、むしろサイズダウンされる方がいい」と回答しています。

 

 

カナダでも同様の動きが見られます。食品・飲料消費者の10人に4人以上は、「価格を抑えるためであれば内容量を小さくしても構わない」と考えています。これは、ブランドが値上げに代わる有効な代替策としてシュリンクフレーションを活用することができる可能性を示唆しています。シュリンクフレーションを行わなければならないような状況下においても消費者を惹きつけるためには、ブランドは透明性のあるコミュニケーションと価値重視の戦略に力を入れるとよいでしょう。SNSでのチャレンジ動画やパッケージ表示などを通じてオープンなコミュニケーションを行うことで、信頼を築き、顧客ロイヤルティを維持することができるはずです。

 

シュリンクフレーションによるマイナスイメージをさらに軽減するために、一部の食品ブランドは原材料の品質を強調しています。こうしたアプローチは「普通のチョコレートを沢山食べるよりも、プレミアムなチョコレートを少量食べる方がよい」と考える半数以上のイギリスの消費者にアピールできるでしょう。こうした戦略は商品のサイズダウンを正当化できるだけでなく、商品の価値を高めることにもつながります。

 

一方、フランス政府は20247月から、シュリンクフレーションを消費者に公表するよう小売業者に義務付ける政令を適用しました。この政策は、ブランドと消費者との間で高まる商品価格への不信感を裏付けるものでもあります。フランスでは2024年にかけてインフレが落ち着きを見せていますが、過去2年間にわたる値上げの累積的影響により、多くの消費者が依然として不安を感じており、71%が「食品・飲料の値上げの影響を受けている」と報告しています。コスト削減策として商品のサイズダウンを受け入れるにしても、消費者はこうした変更についてブランド側に明確で透明性のある対応を期待しています。信頼を維持するためにも、ブランドは商品サイズの変更についてオープンに伝えていくことが極めて重要です。

 

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美容食品業界におけるシュリンクフレーションとインフレに対する消費者の意識

美容業界では、シュリンクフレーションが戦略の一つとして長く活用されてきました。しかしTikTokInstagramなどのSNSプラットフォームが普及したことで消費者が知識を深め、気付きにくい商品サイズのわずかな縮小や値上げについて情報共有するようになったため、こうした戦略には精査の目が向けられるようになっています。このような意識の高まりから、ブランドは消費者から日和見主義的だとみなされ、信頼を失い、「ビジネスは消費者福利よりも利益を重視する」といった見方が強まるリスクが高まっています。

 

シュリンクフレーションによるマイナスの影響を緩和するため、美容業界ではブランドが、消費者の安心感とエンゲージメントを維持するための戦略を策定しています。効果的なアプローチの一つに、サイズ変更なしのフルサイズ商品と並んでサンプルを提供するというものがあります。この戦略では、内容量が少なくなった商品に気付かないまま高い金額を支払うといったことがない点で安心感があるだけでなく、「価値」を求める消費者ニーズにも沿っています。ミニサイズやサンプル、テスターなどは、美容製品を購入する消費者、特に無駄を省きつつ色々な商品を試してみたいと考えるZ世代にとって魅力的です。こうしたお試しサイズを提供することで、ブランドはロイヤリティを高めながら、シュリンクフレーションが「純粋に利益重視の戦略」だというマイナスイメージを最小限に抑えることができるでしょう。

 

美容業界では詰め替え可能なパッケージも有力な手段として活用されており、特に予算やサステナビリティを気にする消費者に好印象です。アメリカでは、化粧品ユーザーの5人に3人以上が詰め替え可能なパッケージの化粧品に関心を寄せています。同様に、ドイツの化粧品ユーザーでも66%が「すべてのグルーミング商品は詰め替え可能であるべき」と考えており、約4分の3は「詰め替え可能な商品を使用したことがある」または「試してみたい」と回答しています。こうしたアプローチは、クリーンで環境にやさしい美容商品購入者にアピールできるだけでなく、ブランドロイヤルティを高めるコスパの高いソリューションとしても魅力的です。「パッケージ廃棄物の削減」と「節約」の2つのメリットを強調することで、社会的責任を果たしながら消費者にも寄り添うブランドの立場をアピールするとともに、シュリンクフレーションにともなうマイナスイメージに有効に対処することができるでしょう。

 

 

経済的に不安な状況下で消費者が買い物の優先順位の見直しを迫られる中、美容ブランドに求められるのは、消費者に向けて「価値」をアピールし、真摯なサポートを提供していくことです。その方法の一つとして、透明性のある価格戦略で信頼を築き、ロイヤルティを維持していくことが挙げられます。アメリカのスキンケアブランドCocokindは、この取り組みを実践する注目のブランドでしょう。Cocokindは、Instagramで商品のコスト、人件費、会社経費、運送、マーケティング、再投資などにかかる費用の割合を視覚化し、シェアするという大胆なアプローチに乗り出しました。消費者にブランドの置かれた状況を公開し、価格決定の背景にある理由を伝えることで消費者への誠実な姿勢を示したCocokindの取り組みでは、値上げもより受け入れやすいものとなるでしょう。

 

スキンケアブランドCocokindは、透明性のある価格戦略で消費者ロイヤルティを維持しています。

出典:Cocokind

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シュリンクフレーションの導入でブランドが直面する課題

 

シュリンクフレーションは実用的な戦略である一方、ブランドが考慮すべきいくつかの課題も抱えています。

 

  1. 消費者からの批判

    SNSの時代である現在、シュリンクフレーションに対する消費者の警戒心はますます高まっています。TikTokは消費者がこうした関心事をシェアする有力なプラットフォームの一つとなっており、ハッシュタグ「#shrinkflation」は20248月時点で8,600万回以上再生されています。シュリンクフレーションに気付いた消費者はすぐにその情報をオンラインでシェアしているのです。ユーザーは内容量の変化が分かる商品の写真やブランドロゴを投稿に含めたり、X(旧Twitter)などでブランドのアカウントを直接タグ付けしたりすることが多く、ブランドのカスタマーサービスチームはこうした投稿に対し公式に返答を迫られます。このように公の場にさらされることで、消費者の不信感が高まり、ブランドの価値に対するイメージに悪影響を与えるだけでなく、消費者を欺くパッケージング形態だとみなされる可能性も生じます。そしてこれをきっかけに消費者はますます知見を深め、懐疑的になっていくでしょう。

     

  2. 規制当局による監視

    シュリンクフレーションの潜在的なリスクは消費者の意識だけにとどまらず、規制上の課題にも及びます。直近では、フランス政府がシュリンクフレーションの公表を小売業者に義務付ける政令を導入したとおり、シュリンクフレーションは消費者保護団体や政府機関からの厳しい精査の対象となる可能性があります。ブランドは規制状況をよく把握し、内容量や価格の調整を明確に伝えていくことで、コンプライアンスの遵守だけでなく評判も維持していくことが極めて重要です。

     

  3. ブランドの価値に対する長期的な影響

    シュリンクフレーションはコスト上昇への短期的な緩和策にはなりますが、これを繰り返し行うことでブランドの価値や評判そのものに長期的な悪影響を及ぼす可能性があります。消費者はこうした戦略に対してますます意識的かつ敏感になっているため、シュリンクフレーションが消費者の信頼を損ね、ブランドロイヤリティを低下させ、市場での競合優位性の維持を困難にする危険性は大いにあります。

 

シュリンクフレーションを活用するブランドに向けたイノベーションの商機

以下に、シュリンクフレーションを活用する上で消費者の信頼を維持するためにブランドが実行できる上位4つの戦略をご紹介いたします。

 

  1. コミュニケーションと信頼性

    信頼を維持していく上で、シュリンクフレーションに関する明確かつ効果的なコミュニケーションは欠かせません。ブランドは、生産コストの上昇やサプライチェーンの課題など、商品のサイズダウンを決断するに至った理由について透明性を保つ必要があります。SNSやプレスリリースなどのコミュニケーション手段を活用することで、シュリンクフレーションを「厳しい経済状況下で消費者の出費を抑えるために必要な措置」として訴求することができるでしょう。

     

  2. 親身なサポート

    景気後退の局面では、消費者は苦しい家計状況に対する共感や理解を示すブランドをより好む傾向が高まっています。ブランドは、共感を呼ぶメッセージキャンペーンや具体的な経済面での支援を提供することで、経済的に厳しい時代においても、消費者への誠実さや親身なサポートを示し、消費者の信頼やロイヤルティを高めていくことができるでしょう。

     

  3. 付加価値を示す

    シュリンクフレーションに対するマイナスイメージを打ち消すために、ブランドは商品サイズ以上の「付加価値」をアピールすることが必要です。心理的・機能的・経済的なメリットを組み合わせることで、ブランドは価値提案を強化することができるでしょう。こうしたアプローチにより、消費者は品質を妥協しているのではなく、賢い買い物をしているのだと感じることができます。

     

  4. 価格の透明性

    値上げをしなければならない場合、ブランドはなぜ値上げが必要なのかをわかりやすく明確に伝えることが重要です。こうした説明を「品質向上」や「サステナブルな取り組み支援」といった消費者中心の価値ストーリーと結びつけることで、信頼をさらに高め、消費者との良好な関係を維持することができるでしょう。

 

ミンテルとともに未来を見据える

シュリンクフレーションは経済的な圧力へのやむを得ない対応ですが、ブランドがこのような状況をいかに乗り切っていくかは、消費者との関係性に大きな影響を及ぼします。消費者がますます知識を身につけ、疑いのまなざしを向ける中、ブランドは透明性のあるコミュニケーションに力を入れ、彼らへの共感を示し、提供できる付加価値をアピールすることが不可欠です。シュリンクフレーションの背景となる理由を説明し、品質やサステナビリティに対する取り組みを強調することで、経済的に厳しい時代であっても、こうした困難な状況を消費者の信頼やロイヤルティを高める商機へと一変させることができるのです。

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