2023年8月下旬の爽やかな日の午後、ロンドンのローズクリケットグラウンドにて行われたThe Hundred Women’s Competition Finalで、Southern Brave女子クリケットチームが優勝し、1か月にもわたる32試合のトーナメントの頂点に立ちました。しかし、この試合の最大の「勝利」はスコアボード上の記録ではありません。試合全体の観客動員数は記録的といえる30万人に達し、8試合はSky Sports(イギリスの大手スポーツチャンネル)の年間女子イベント視聴率でトップ10入りを果たしました。こうした数字は、スポーツ観戦における変化や新たな解釈を示唆しています。

では、私たちが知るスポーツ観戦の新たな解釈を促しているものとは何でしょうか?

女子スポーツはその規模や価値の点で、まだ初期段階ながらも極めて重要な成長段階に差し掛かっています。女子スポーツにおいては、アクセスのしやすさや知名度に焦点を当てることが、こうした成長を促します。また、昨今の経済情勢の影響がレジャー市場にもたらした「コストへの敏感さ」に対応するための重要なポイントとなっています。

さらに、女子スポーツはスポーツの男女平等を推進する新たな様式やファン体験を取り入れ、男性優位の構造から脱却した新たな「自由」のコンセプトを活用することで成長しています。こうしたイノベーションは、スポーツの未来を変革することにつながっていくでしょう。また、女子スポーツの知名度向上は、女性や女児がスポーツに参加するきっかけとしても極めて重要なものとなっています。

女子スポーツの人気を高めている市場概況やトレンド、経済的影響、直面する課題、そして2024年以降、企業が女子スポーツの成長を効果的にサポートするためには何ができるのかを、ミンテルとともに本記事で紐解いていきましょう。

 

なぜ女子スポーツの人気は高まっているのか?

スポットライト:女子スポーツのメディア露出が増加

イギリスで女子スポーツへの関心が高まっている最大の要因の一つに、主要な大会のメディア露出やテレビでの放映が増加したことが挙げられます。歴史的に、女子スポーツの報道は最小限でしたが、「より公平かつ敬意ある報道」へとシフトする動きが、消費者の関心を惹きつけています。イギリス人の48%が「テレビで女子スポーツを目にすることが観戦のきっかけになる」と回答していることからも、知名度の重要性は否定できません。

慈善団体Women’s Sport Trustの分析によると、2023年女子ワールドカップはBBC、ITVなどの放送局で2億6,200万時間という驚異的な視聴時間を記録しています。また、今年のパリ・オリンピックは男女同数の選手が出場する初の大会として、女性アスリートにとって重要なイベントとなるでしょう。女子スポーツの知名度をさらに高め、女性アスリートの認知度をより高めるために、オリンピック主催者は女子競技が男子競技と同じプライムタイム(午後7時から11時まで)の放送枠を確保できるようスケジュールを調整しています。

しかし、一方向のアプローチだけでファンの関心を喚起することは難しいでしょう。テレビ視聴は年配の視聴者に好まれる傾向があることから、テレビを活用して女性アスリートへの関心を喚起する場合も、視聴者層に同様の傾向がみられます。これに対して、若い視聴者はSNSで目にする情報により関心を持つ傾向があり、16-24歳の若者の3人に1人以上が「SNS上のコンテンツが女子スポーツへの関心を惹く」と回答しています。こうした理由から、女性アスリートに関してビジネスを展開する企業は、ブランドリーチを最大化するためにマルチチャネルのメディア戦略が必要となります。ここでは、潜在的な視聴者をセグメント化し、その世代の嗜好に合った方法でターゲティングする必要があるでしょう。

 

壁を破る:なぜ女性アスリートが重要なのか

女子スポーツの成長は、女性アスリートがロールモデルやブランドアンバサダー、ソーシャルメディアインフルエンサーとして登場してきたことも一因となっています。イギリス人の80%が女性アスリートを若い女性にとっての良いロールモデルだと捉えており、28-34歳の4分の3は、女子スポーツを「平等、多様性、包括性を推進するもの」として認識するようになっています。こうした変化は、これまでの男性優位な環境を超えて国際的な観戦スポーツに新しい観客層を惹きつけています。しかし、女子スポーツが社会変革のポジティブな動力とみなされている一方で、個々の選手が特定の社会的大儀に取り組むことはさほど期待されていません。これまで「男性の分野」であったスポーツ界で活躍し、スポーツにおける男女平等に本質的に貢献してきた女性の功績はすでに高く評価され、若い女性にとってもますます大切なロールモデルとなっています。

 

 

こうしたことから、「平等」や「権利の尊重」といった価値観を取り入れたい企業にとって、女子スポーツは重要な取っ掛かりとなるでしょう。企業は女子スポーツを活用することで、公平性を重視し、同じ価値観を共有する企業を好む消費者に向けてアピールすることができます。フィールド上での成績や競技大会も引き続き注目を集めており、スポンサーシップやパートナーシップを通じたスター選手の育成は、企業にとって長期的なメリットをもたらします。こうした選手への親近感や感動的なストーリーを活用することで、ブランドは熱いファンの心を掴み、継続的に関心を高めることができるでしょう。アメリカの女子スポーツファンは、一般的なスポーツファンよりも明らかに熱量が多く、10人に6人は自分自身について「熱狂的なファン」だと回答しています。こうした熱い関心は、オリンピックをはじめとする主要大会のメディア報道や、応援するチームリーグへのサポートを増やしてほしいという強い要望につながっています。突き詰めると、女性アスリートに関わるビジネスを展開する企業は、女性アスリートのポジティブなイメージに触発されたファンの湧き上がる善意から恩恵を受けることができるでしょう。

 

シュート!ゴール!女性アスリートの経済的影響

厳しい経済情勢は、予想に反して女子スポーツの観客数増加に歯止めをかけることなく、むしろ増加促進の一助となっています。観戦スポーツ市場では、主要な大会への関心の高さや、主な観客層が比較的裕福であることが、困難な経済状況下においても最悪の事態をまぬがれる抵抗力となっています。とはいえ、今後は高インフレや金利上昇などの経済的要因から、イギリスの消費者によるスポーツ観戦への支出は、2023年の15億6,300万ポンドから2024年には14億5,000万ポンドまで落ち込むとミンテルは予測しています。しかし、このような状況でこそ、女子スポーツの価格の手頃さが真価を発揮するでしょう。女子陸上競技や女子スポーツリーグは、厳しい経済状況の中でも楽しめる、男子競技に代わる安価で魅力的な選択肢を提供できるのです。また、女子スポーツは、価値観がより重視されるレジャー市場において、新たなファン層を獲得するきっかけとなるサンプリングの機会も提供しています。

ミンテルのより詳細なスポーツ市場調査を閲覧する

 

新たなスポーツ様式の魅力

スポーツ市場に携わる女性にとって、女子スポーツに最も期待される可能性は、これまでの男性優位な構造から解放された、女子スポーツならではの新しい様式やファン体験を生み出せることです。スポーツの未来を変える現実的な可能性が期待できるだけでなく、こうした新たな様式は新たなファンを惹きつけ、女子スポーツの知名度を高め、従来の形とは一線を画すユニークな体験を提供することで、女性アスリートへの投資を促進することが期待できます。

クリケットリーグであるThe Hundredは、男女両方の試合を同日開催することで女性の観客を歓迎し、定着させ、観客全体をより包括的かつ家族全体が参加できるものにしています。こうした男女を問わず楽しめる様式には、スポーツの男女平等を推進し、女性アスリートの知名度を高めながら、さらなる消費者支出を促す効果が期待できます。

女子競技は、従来のルールや様式をバランスよく採用することで主流となっている市場への参入を試みながら、男子スポーツ文化とは大きく異なる方向性を模索しています。例えば、サッカーの女子スーパーリーグや女子選手権は2024/25シーズンからFAから独立し、新たな投資モデルの構築を目指しています。また、SNSから発足したスペインの7人制サッカー大会「キングスリーグ」や、その女子大会である「クイーンズリーグ」などの革新的な様式も、今やメインストリームのエンターテイメントを超える盛り上がりをみせています。ミンテルの「Spectator Sports – UK – 2023」レポートによると、16-24歳の若者の間ではキングスリーグに対する認知度が男性よりも女性の間で高いことがわかっています。このことから、SNS主導の新たな様式は、新規ファンを効果的に惹きつけ、女子スポーツの観客層を拡大できるでしょう。

古い慣習から脱却することで、女子スポーツは、質と熱量を最大限に高めた競争力のある新たなスポーツ様式として、新規ファンを魅了し、より多くの観客を取り込みながら、消費を促進する新たなストーリーや競争関係を育む道も大きく開かれています。

 

女子スポーツが直面する最大の課題とは?

イギリスやアメリカでは一般的に、女性のスポーツへの参加は様々な年齢層で男性に後れを取っています。例えばイギリスでは、女性は男性に比べてチームスポーツに参加する傾向が低いことが分かっています(男性31%に対し女性は9%)。アメリカでも男女の参加率の差は歴然です。ミンテルの「Teen & Tween Sports – US – 2022」レポートによると、男児は女児に比べてバスケットボール、野球、サッカーなどの青少年スポーツに従事する割合が多くなっています。また、女性はチームスポーツよりも個人スポーツや健康維持のためのスポーツに参加する傾向が高くなっています。チームスポーツへの女性の参加率が低い現状は、これまで関心のなかった層に向けて女子スポーツの魅力をアピールする必要性を示しており、女子スポーツへの誘致や観客動員に悪影響となる可能性があります。

 

 

スポーツへの参加は、スポーツ観戦への関心を高める極めて重要な要因となっています。積極的にスポーツをする人には、スポーツと関わり、スポーツを観戦したい、サポートしたいという欲求が生まれやすくなります。したがって、女性のスポーツ参加率が増えることで、女子スポーツにも熱量のある観客層をより多く取り込むことができるでしょう

一方、企業はこうしたギャップを埋めるための取り組みを進めています。ミンテル「Women’s Sports: Spotlight on Fans – US – 2022」レポートでも取り上げられている通り、女子スポーツへの参加促進には、地域社会への働きかけが不可欠です。草の根の活動に取り組むことで、スポーツチームや女子スポーツリーグが教育の場となり、幼い時期から女児の身体活動を推進することができるでしょう。また、こうした活動は将来のスポーツ選手やファン層の開拓を促し、女子スポーツにおける長期的な経済的利益を育むことができます。これは、WNBA CaresNWSL Nationwide Community Impact Programなどのイニシアチブからも明らかです。

また、スポーツイングランドの「This Girl Can」などのキャンペーンは、女性にとってスポーツをより社会的で適切、かつ安全で自信を感じられるものにすることで、男女が感じる運動の楽しさのギャップを埋めることを目指しています。ポジティブで包括的な環境を推進するこうした取り組みは、より多くの女性がスポーツに参加し、女子スポーツイベントへの関心や観客動員を高めるきっかけになるでしょう。

 

企業が女性アスリートに最善のサポートを提供する方法

本記事でも触れた通り、女子スポーツを推進支援する上で重要な役割を果たす可能性のある企業の戦略は数多く展開されています。ここでは、ミンテルのエキスパートが推奨する、より公平で包括的なスポーツ業界を構築するための主な取り組みをご紹介いたします。

  1. メディア報道に投資する
    企業はメディアと提携することで、より多くの試合がキー局のプライムタイムに放送されるよう、促すことができます。主要メディアでの露出が増えることで、さらに幅広いファン層を獲得することにつながります。
  2. 女性アスリートをブランドアンバサダーとして起用し、その功績をアピールする
    企業は、広告、スポンサー、SNSキャンペーンなどを通じて選手の功績をアピールし、才能ある女性にスポットライトを当てることで、性別によるファン格差を埋めるきっかけを提供することができます。
  3. 草の根のイニシアチブや青少年プログラムをサポート
    草の根のイニシアチブや青少年プログラムへの資金援助によって、次世代の女性アスリートを育む強力な基盤を築くことができます。

 

ミンテルとともに未来を見据える

メディアによる報道の増加は、特に厳しい不景気の中、その価格の手頃さも相まって女子スポーツをメインストリームへと押し上げています。企業とのパートナーシップやスポンサー活動が活発になる中、女子スポーツへの投資はますます拡大していくと予想されます。

革新的な様式を開拓することで、女子スポーツは、包括的で、家族みんなで親しむことができる点を魅力に感じる新たな観客層を惹きつけることができるでしょう。しかし、可能性はここからまた更に広がっていくと思われます。女子スポーツに新たな展望を切り開く、多角的なアプローチが求められています。若い才能を育むためには草の根レベルの継続的な投資が必要であるとともに、若い女性にスポーツへの参加を促し、次世代のスポーツ選手となるきっかけを与えるインパクトのあるブランドキャンペーンが、引き続き女性アスリートの市場の初期段階ながらも大きな成長をサポートするでしょう。

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