ホットスポットは、ミンテル・トレンド部門が世界中で発売される製品や開始されるサービスについて調査し、その最新の結果をお届けする。製品の15%を黒人によるビジネスから仕入れることを誓約するという企業への呼びかけから、マインクラフト(ゲーム)の世界で実施された卒業式にいたるまで、今月起こった世界中で最も画期的な取り組みの数々をチェックしよう。

米国 – 15%の誓約

デザイナーのオーロラ・ジェームズは、15%の誓約の提唱者だ。これは、製品の15%を黒人が運営するビジネスから仕入れるよう約束することを企業に呼びかけるものだ。ジェームズ自身も黒人経営者の一人であり、靴とハンドバッグを扱う企業、ブラザーベリーズの創設者兼クリエイティブディレクターを務める人物だ。国勢調査のデータによれば、2019年時点での黒人人口は全体の13.4%を占めており、だからこそ、この誓約を通して、オンラインおよび店舗への商品の仕入れ方もこの割合を反映した形になるよう企業に呼びかけている。ターゲット、セフォラ、ショップボップ、ホールフーズは、これら4社の製品に対する予算の15%だけで145億ドルに達することから、すべて名指しで誓約への署名を求められており、多くの資金が黒人資本のブランドへ回されることとなった。

15%の誓約は、企業にとって象徴的で、経済的にもインパクトの大きいアクションアイテムの優れた一例である。オーロラ・ジェームズは、企業の社内部門に迅速な立案を依頼する代わりに、黒人経営者が自ら旗振り役となるべく単刀直入な誓約を提唱し、黒人資本のブランドに向けて、長期にわたる経済的な再分配と利益拡大へつながるソリューションを提案している。ジェームズは、誓約を検討すると打診してきたブランド名は公表しないものの、多くの企業がこのソリューションの達成を難しく感じていると指摘した。これは核心を突いた点といえる。消費者は、ブランドがやれ革新だ、ソリューションだと、ただ口先だけで真意を装っている場合にはそれに気が付くものだし、企業が今まで取ってきた方法を変えるというのは、消費者の要求に対してより満足に応える(この「自分たちの要求に応えてほしい」ということ自体が消費者の要求である)ために企業が積極的に既存のプロセスを再構築する手間をかける必要に迫られているということを意味する。この手間ゆえに達成が難しいものなのである。

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出典:AuroraJames.com

— トレンドアナリスト アレックス・ミリナッツォ(米国)

ブラジル – ゼロから作り上げた卒業式

ブラジルの学生たちが、パンデミックによって課された安全対策を維持しつつ自分たちの卒業を祝うにはどうしたら良いのかと考え思いついたのが、ゲームのマインクラフト上に自分たちのグループを作ることだった。4人の学生は12時間にわたる卒業式全体のシナリオを作成し、マインクラフトの世界の外の集合地点や会場も決めた。イベントはYoutubeで生中継され、Discordでボイスチャットも行われた。70名がイベントに参加したが、イベントではすべての卒業式の伝統が守られ、教授たちは卒業生と会話することもできた。

ソーシャルディスタンスの確保という対策がいつまで続くか分からない中で、動きを制限された消費者は今も、これまでの人生で夢見た素晴らしい唯一の瞬間を生きることを阻まれている。デジタルの世界に没頭することで生まれる新しい社会的隔離の習慣から新しい経験の可能性が広がり、ブランドはそうしたオンライン上でのサポートを提供することによって、この未経験の領域から利益を得られるようになった。消費者はこの新しい現実を快適と感じるようになるにつれ、自分自身の経験を受け取る側から作る側へと変化していく。それによってブランドは、かつては自分たちだけが経験を提供する側であったが、その事業の中心にある面白さや超個別化を維持しながらも、今後はさらにブランドとしての在り方を模索していくことが要求されることになる。

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— トレンドアナリスト ヴァネッサ・ロンディーン (ラテンアメリカ)

中国 – 美味しいジェイ

上海で最も混み合う地下鉄のとある駅で、オレオが歌手ジェイ・チョウのアート展を開催し、彼の代表作である4枚のアルバムのジャケットを、かの有名なビスケットを用いて表現した。このアート展には5人の芸術家が集い5万枚のオレオ・ビスケットが用いられた。全部で25点の作品がこの展示のために制作され、そのうちの4点が、オレオ・ビスケットを用いて作られたジェイ・チョウの代表作であるアルバムのジャケットなのである。さらにオレオは、設置したマイクを使って通行人が有名な歌手と短い会話を交わすことができる機会を設けるなどといった、インタラクティブ・ステーションも展示した。アート展は上海軌道交通(地下鉄)の徐家匯駅で2週間にわたって開催される。

2000年にデビューアルバムをリリースした後、ジェイ・チョウは歌手としての人気を博し、アジア中の多くの人々が彼の曲を聴きながら育った。このキャンペーンの目的はそれを利用して人々に子ども時代の記憶を思い出してもらうことにある。ノスタルジーがマーケティングでよく利用されるのは、そのような感情が人を心地よくするからであり、いくつかの研究では、そうした感情がストレスの多い局面や人生の節目に対処する能力を高めることができると示している。オレオは過去にも自社のビスケットを使って印象的な作品を制作したが、今回初めて作品を実際に展示し、消費者が見て、楽しんで、触れられる機会を設けた。

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— トレンドアナリスト ジョイス・ラム(アジア・パシフィック)

タイ – 支援をゲームの世界に

ダッチミルの飲むヨーグルトを健康的な選択肢として販売促進するため、ダッチミルは、バーチャル上のブランド代表者、ダッチミル・ガールズをタイで人気のシューティング・サバイバルゲームの世界に派遣し、プレイヤーにゲーム内の支援物資を届ける試みをした。「シークレット・サポーター」キャンペーンの目的は、現実世界とゲーム世界の両方を通じて、タイのティーンエイジャーに常に有益なエネルギーと新鮮な製品を届けるというブランドの在り方を伝えることである。ゲーム内のダッチミル・ガールズは、ゲームの戦いや競技には参加せず、ただ支援物資という形でゲーム内の体力の源を提供するのだが、この取り組みに関するソーシャルメディア上での評判は好意的な言葉が多かった。

オンラインゲームは、徐々にそれ自体が広告媒体としての魅力を増しており、ブランドが従来の販路ではリーチしづらい若年層へアピールするための新しい道を拓いている。実際、早期にこの手法を導入したブランドの多くは、より大規模に消費者と関わる機会を持つという観点から、携帯ゲームを新しいソーシャルメディアとして認識している。現在の危機的状況を考慮し、マーケティング担当者はインターネットや携帯ゲームに多くの時間を割く消費者に向けて強力で影響力のある広告を届けるべくゲーム用のプラットフォームを利用しはじめている。ダッチミルは、プレー中に目障りにならない美味しい方法で、ゲームのプレイヤーに意図したとおりのメッセージを伝えることに成功し、タイの消費者から絶賛された。

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— トレンドアナリスト メラニー・ナムビア(東南アジア)

フィンランド – 公園でバーベキュー

食肉会社のアトリアは、消費者がバーベキューを楽しめるよう、図書館に貸し出し用のバーベキューグリルを置いている。17カ所の提携図書館でバーベキューグリルを借りることができるのだ。これによりバーベキューをする場所や自前のグリルを買う金銭的余裕のない消費者でも、公園やその他の公共スペースでバーベキューを楽しむことができるようになった。このグリル貸し出しサービスは2020年の夏いっぱい限定だが、十分な関心を得られるなら常設することも検討しているとアトリアは表明している。

多くの図書館が、本やメディア以外の領域にまで選択の幅を広げ、地域をもっと支援する道具など、実用品も取り扱っている。これは消費者に、これまでとは違う「所有する」ということについての考え方を普及させるきっかけとなり、共有経済という新しい概念を拡げる下地となる。特に若い消費者は持続可能な価値観を持っていて、なおかつ家財を多く置けない狭い賃貸アパートに住むことも多いため、新しい共有・貸出モデルを受け入れやすい状況にある。共有経済を支持することで、ブランドは人々の公共スペースの再生を促して後押しするだけではなく、消費者が待ち望んでいた経済的な恩恵を与えることもできる。

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— トレンドアナリスト リーサ・コンタス(北欧)