HOTSPOTS(ホットスポット)では、世界各地で発表された革新的な製品やサービスについて、Mintel Trendsチームによるインサイトをお届けしています。今月は、自閉症を持つ人に向けたハギングチェア(抱擁感を得られるチェア)や、必要とするスキルを持つ近隣住民とつながることのできるコミュニティプラットフォーム等をご紹介します。

ハギングチェア – フランス

フランス人デザイナー アレクシア・オードレン氏 は、自閉症を持つ方向けに、抱擁感の得られる椅子を開発しました。「The Oto」と名付けられたこの椅子は、繭のような形をしており、内部の壁をリモコンやタブレットで操作して膨らませることができます。抱擁されているような感覚をもたらすこの仕様は、自閉症を持つ方が悩む、感覚過敏の症状を和らげます。The Oto は、2021年のジェームス・ダイソンアワードを受賞し、フランスのトゥール大学病院の児童精神医学センターにて試験導入されました。オードレン氏は、5台のチェアを様々な環境で実験的に導入し、来年には商品化を目指しています。

 

ブランドは、自社の製品やサービスが障がいのあるユーザーにもより利用しやすいものになるよう、デザインや機能を工夫し、イノベーションを進めています。ブランドは、フォローが行き届かず、見過ごされがちな購買層に向け、障がい者が移動しやすい公共スペースの整備や、テクノロジー製品へのアクセシビリティ機能搭載の推進などのサービスを提供しています。これにより、ハンディキャップのあるユーザー(消費者)が、今まで利用できなかった商品を楽しみ、より自立したライフスタイルを送ることができるよう力づけることができます。また、ブランドは、病気を患っている方や特定の民族・人種など、特定のコミュニティーが持つ肌や髪、ファッションへのニーズに特化した製品を開発しており、消費者のアイデンティティに寄り添う商品を開発しています。

タリ・ラムゼイ – EMEAトレンドアナリスト

ご近所住民同士で支えあうサービス– タイ

不動産デベロッパーの AP Thaiは特定のスキルを必要とする人と、そのニーズへの対応スキルがあり、近所に住む人がユーザーとして繋がることのできるコミュニティプラットフォームを作りました。AP Thaiによる「ネイバーサービス 」はTinder (ティンダー)とFastwork (ファーストワーク)を掛け合わせたようなもので、ログインすると、住んでいるエリア内で、必要としているスキルを持って対応してくれる人を探すことができます。このプラットフォームは孤立化が進み、様々なサービスセンターが閉鎖されるつつある地域社会への対応として作られました。「ネイバーサービス」の取り組みは、コミュニティメンバー同士の距離を縮め、近隣内で経済を回すことを実践したシンプルなモデルケースです。「ご近所同士のメンバーでそれぞれのスキルを用いて助け合いをする」ことがコンセプトです。

 

特に都会では、多くの人々が自分の殻に閉じこもったような心境にあり、近所との関わりが希薄になっています。新型コロナウイルスの蔓延により、手に職を持った多くの人々がその力を発揮することなく職を失い、家にこもりきりになる生活を余儀なくされました。また、一人住まいの高齢者などが必要なサービスや支援を受けられないケースも増加しています。AP Thai は「ネイバーサービス」を通して、コミュニティのためにスキルを活用し、パンデミックの影響を受けた地域住民に少しでも以前の生活、目標、希望を取り戻す手助けになればと考えています。

ジョエイ・コング – SEAトレンドアナリスト

Etsyのおうち時間 – 米国

Etsy(オンラインショッピングモール)は、Etsy上で購入できる商品を、オンラインで訪問できるバーチャルな家に組み込んだAR(拡張現実: 現実の映像にデジタルデータを重ね、 その見ごたえから商品やサービスの特性をよりリアルに消費者に伝え、購買意欲を高める技術)サービスを導入しました。例えばこのバーチャルホームはすでにクリスマス仕様になっており、様々なデコレーションが飾られたインテリア空間を楽しむことができます。バーチャルホームは買い物ができるようにレイアウトされており、アイテムにカーソルを合わせると、商品の詳細や購入へのリンクが表示されます。このバーチャルホームはThe Boundaryというクリエイティブスタジオとのパートナーシップのもとに作られています。

パンデミックの影響により世界的にオンラインショッピング人気は加速化しており、オンライン上でも静止画面より、リアルな環境でのショッピング体験へのニーズが高まりました。VR(バーチャルリアリティー)を通し、インスピレーションと利便性を融合した没入型の体験を創造することで、オンライン上でもリアルな体験を求める消費者のニーズを満たそうとしています。Etsyのような大型のネットショッピングプラットフォームにとってVRへの関心の高まりは、登録する小売業者が新たな形で商品をディスプレイする新たな可能性を秘めていることを意味します。

ダイアナ・ケルター – 北米 消費者トレンドアソシエイトディレクター

ハンバーガーブランドならではの「炎のグリルで敬意を」 – コロンビア

Burger King Colombiaは地元の消防士に敬意を表した新しいキャンペーン“Fire and Grill Experts.” を実施しました。このキャンペーンは、長年にわたりハンバーガーブランドとしてグリル料理の提供に経験豊富なバーガーキングが、地元消防士のスポンサーとなったことをプロモーションするもので、グリルに使う「炎」を消防士の職務と掛け合わせ、Burger King Colombiaを利用するすべての消防士にクラシックワッパーバーガーを無料で提供します。

他のラテンアメリカの国々と同様、コロンビアの消防士はボランティア制となっています。必要な資格を保有し、訓練を受けているにもかかわらず、ボランティアとして名乗り出た消防士たちは最低賃金で仕事をしています。 地方自治体からの援助はほとんどないため、消防士たちの生活は地域社会からの寄付によって維持されています。消防機関に寄付を行うキャンペーンや、無料で食べ物を提供するなどのささやかでも意義のある、敬意のこもったキャンペーンを多くの企業が行ってきました。このような施策を通して消防士たちの活動や地域社会への貢献が認知され、直接的に評価されるきっかけともなります。こうしたアクションは、パンデミックの最中に第一線で仕事をするエッセンシャルワーカーたちに無料で商品やサービスを提供する形で活発化していました。

デイナ・マッケ – アメリカ トレンドディレクター

プラスチックの雪山 – 中国

NGO団体、Green RiverとコラボレーションをしたOMO「美しい未来のために三江源を守ろう」 と銘打ったイニシアチブを発表し、環境に配慮したライフスタイルを提唱すべく、OMOの環境に優しい洗濯洗剤の販売促進キャンペーンを行いました。キャンペーンではアジアの三大河川である、黄河、揚子江、メコン川の上流である三江源に捨てられたペットボトルをNPOスタッフが拾い、そのペットボトルを利用して「雪山」を作りました。そして、アーティストのZha Songgang氏を招いてこの雪山のレプリカを制作し、完成した作品は上海で展示されました。OMOの新しい洗濯洗剤はリサイクル可能なパッケージを使用し、二酸化炭素排出量を抑えています。OMOは中国におけるプラスチックのリサイクルを今後3年間で30,000トンにまで増やす目標を掲げています。 

プラスチック汚染が環境に悪影響を与えていることは理解していても、それが日常生活にどのような影響を与えるかは、現状を目にするまでは意識をするのが難しいものです。芸術的にデザインされた「雪山」は、ゴミとして捨てられたペットボトルを雪山に変えることで、消費者に強い視覚的インパクトを与え、サステナビリティ(持続可能性)について考えるきっかけをもたらします。環境意識の高まりとともに、環境に配慮した製品が続々と発売されていますが、持続可能な購入方法を消費者に伝えることも重要な課題です。OMOのキャンペーンは、消費者の目に留まりやすく、自身の消費行動と、サステナビリティにおける現状の間に存在するギャップについて気付く機会を与える良い例です。

ヴィクトリア・リー – APACトレンドアナリスト