プラントベースのカテゴリーが岐路に立たされています。「プラントベース」という言葉は、シンプルな食材から、動物の肉や乳製品に代わる食品(例えば、一見ハンバーガーのように見えるが、植物由来の代替肉を使用)へと進化してきました。 この用語は、非動物性の原材料を使用していること以外、栄養面で特段優れているわけではない高度な加工食品に対し、ヘルシーさのお墨付きをもたらすために使われるようになったという意見も聞かれます。そして、従来から動物性原料を使わずに作られてきた製品が、“植物性”を謳うことで追随してきています。

ブランドをここまで育てても、そこからは伸び悩む

動物性タンパク質は依然として食生活の中心です。消費者は肉を控えているものの、完全に避けている人は少なく、将来的には動物性タンパク質をとる生活に戻したいと考えている人が存在します。さらに、植物由来の肉や乳製品の代替品に魅力を感じず、将来的にもこれらの製品を食べる気がない消費者が一定の割合を占めており、食品企業のマーケターにとって、喫緊の課題となっています。実際に、米国などの市場では売上が鈍化しています。プラントベース食品を初めて試した人のうち、2割近く(16%)がすでに代替肉の使用を控えており、継続的な支持には至っていません。

プラントベースの食品は、栄養価が高く、健康にも良いというイメージがあります。しかし、近年、多くの人が「超加工食品(ultra-processed)」と呼ぶ植物由来の類似製品が急増したことで、この評判が重圧となり、世界の多くのマーケットにおける消費者が一部の植物由来の製品の加工度合いを疑問視しています。肉に近い植物性タンパク質が注目されている一方で、肉を制限、または避けている消費者の多くは、加工度の低い植物性タンパク質の選択肢を好んでいます。ブランドはこうした要望に対応するために、引き続き製品に磨きをかける必要があります。

消費者の期待に応えるには、技術の進歩が鍵になる

豆腐やセイタン(グルテンミート)などの植物性タンパク質製品は、長い間、ベジタリアンや ヴィーガンのための選択肢の一つでしたが、これらの製品は、味に妥協しないマス層の消費者にアピールすることができませんでした。しかし今、新たなテクノロジーが次世代のプラントベース食品を生み出し、このカテゴリーを主流に押し上げようとしています。 新しいツールが加わり、精密発酵食品、植物性食品、さらには細胞性産物の境界線が曖昧になる中で、消費者はさらにリアリティのある商品と新しい様式を期待することができるでしょう。

発酵

バイオマス発酵は、微生物を使ってタンパク質を生成する方法です。例えば、Motif Foodworks社(米国)は、植物性食肉メーカーに「ヘマミ」と呼ばれる酵母由来のヘムタンパク質を使用し、肉本来の味と香りを製品に添加することができます。培養タンパク質の開発が進むにつれ、精密発酵タンパク質も、低価格、味の改善、優れた機能性など、培養タンパク質に匹敵するメリットの提供が求められています。

3Dプリント

チキンナゲットやチキンテンダー以外にも、食肉代替のイノベーターたちは、あらゆる形状と食感を模索しています。3Dプリントを使用すると、軟骨、赤身、白身の組み合わせなど、鶏肉の部位独特のさまざまな層を再現することができます。この技術によって、ステーキや鶏胸肉のような繊維が組み合わさったような肉製品を作ることができます。これに対して、一般的なハンバーガーやナゲットは、こうした技術がなくても簡単に作ることができます。例えば、スペインのNovaMeat社は、3Dプリントを使って、プラントベースミートを丸ごと1カット作っています。3Dプリンターが普及すれば、より多くの消費者が楽しめるようになり、植物由来の製品の普及が促進されると考えられます。

人工知能(AI)の活用

AIは、企業が次世代の食材を発掘し、食品を迅速かつサスティナブルに、消費者の嗜好を考慮して生産するのに役立っています。チリのスタートアップ企業NotCoは、AIアルゴリズムGiuseppeを使用して、動物性タンパク質を何千もの植物性食材の中から理想的な代替品にマッチさせ、魅力的な食感、色、香りのブレンドを作ります。このアプローチを使用して、同社は「NotMayo」「NotMilk」「NotBurger」を発表しています。将来的には、AIはより持続可能な「魚」製品の原料を見極めるのに役立つでしょう。植物由来の魚介類は、植物由来の代替品の次の大きなトレンドといえます。ブランドは、魚の代替品を海や海洋生物を保護する方法として位置づけ、環境面での利点を強調することができます。AIは、魚の食感を模倣しながら、水銀、マイクロプラスチック、毒素を含まないなど、優れた持続可能性を実現するのに役立つ潜在的な成分を探し出すために使用することが可能です。

多様な動機を持つ消費者に向けて、ターゲットを絞ったメッセージングが必要

消費者は肉類に関して強い意見を持っており、それは時として矛盾していないとしても、複雑なものとなっています。消費者の大半は、加工した代替食品よりもそのままの植物性食品の方が健康的だと考えていますが、加工代替食品に肉や乳製品に似た味を求める人も少なくありません。代替肉の利用に関しては若年層においては一般的ですが、すべての消費者層が植物由来の食品カテゴリーに関心を寄せています。消費者がこれらの製品を求める理由は、個人の健康への関心から環境への配慮まで、多岐にわたります。企業は、植物由来の食事にまつわる消費者独自のニーズと動機を理解する必要があります。ブランドは、消費者にアプローチする方法を工夫し、より細分化されたカスタマーグループを作る必要があります。

野菜や果物を積極的に摂りたいという消費者の気持ちを見失ってはいけない

豆類や全粒粉のような高タンパクの植物性食品は、すでに身近な存在であり、加工度も低く、ビタミン、ミネラル、食物繊維の含有量から、より機能的な健康ニーズまで、消費者の持つ多くのニーズを満たしています。 美味しく、信頼のおける製品表示がつき、栄養価が高く、持続可能でエシカルな認知度の高い植物原料は、製品ソリューションを提供する、長期的かつ強力な手段となります。肉や乳製品の代用品と、リンゴやブロッコリーのような野菜や果物を丸ごと食べることのどちらかを選ぶとなると、「どちらか一方」ではなく、「両方」が必要なのです。しかし、野菜、果物、穀物、豆類をもっと魅力的に、わくわくするようなものにすることが課題となっています。

Mintelの考察

現在市場に出回っている植物由来の製品は、消費者の期待に応えきることができず、一部のマーケットではすでに売上が低迷または減少しています。しかし、植物由来の製品はこれからも販売が続き、競争が激化する環境下でヒットする製品を生み出すためのツールも増えています。技術や原材料の進歩により、プラントベース食品の消費者ニーズに応えるイノベーションが実現可能となっていくでしょう。

現在の課題は、競争が激化する環境下でブランドを差別化し、毎日の食事に取り入れることができる代替肉製品の存在を、マス層の消費者にアピールすることです。プラントベーストレンドの次の進化は、プラントベース製品に興味をもつ消費者の動機に大きく対応し、差別化のための技術に頼ることになるでしょう。