著者: ミンテル  ウィメンズ インクルージョン ネットワーク(WIN)

ミンテル  ウィメンズ インクルージョン ネットワーク (WIN) は、アジア太平洋地域(APAC)を拠点としたミンテル社員の従業員リソースグループ(ERGs)です。このグループを通してミンテル社内の女性のエンパワーメントを促進し、女性が安心して表立った活躍ができる空間を作り、平等に関する意識を高めるようなコミュニティの構築を目指しています。互いにサポートしながら自己啓発をする場となっています。

268年 ―これは世界経済フォーラムが試算した、男女平等にむけて現状のスピードで変化を続けた場合の世界的な男女の経済格差を解消するまでにかかる年数です。

歴史を振り返る

100年前頃までは、女性のアイデンティティーは現在と全く異なり、ほとんどの女性が家庭に入って家族の世話や家事をしていました。何十年にもわたる活動、平等の実現への挑戦、そしていくつもの法律の制定により、経済的自由を含め女性を取り巻く環境は少しずつ改善してきました。一方で、日常生活に残されたジェンダーギャップはますます複雑になってきています。多くの国がこの事実を認め、女性の可能性を最大限に引き出すための取り組みを行っていますが、男女間における賃金格差は依然として労働環境における深刻な問題です。

しかし、このギャップを埋めるのは簡単なことではありません。女性に対するさまざまな歴史的・文化的偏見の影響を受け、従来から女性が多い業界(看護、接客、介護、事務など)、女性が少ない業界(IT、航空宇宙、建設、営業、会社役員など)にかかわらず女性の持つスキルは信頼を得るのに時間を要したり、過小評価をされています。例えば、様々な業界で女性の活躍が増えていますが、 基本給は減少傾向にあります。これは、女性の仕事がすべての人から平等に評価されているわけではないという不都合な現実を示しています。

女性が男性に比べて収入が少ないと言われる事情には諸説ありますが、主に産休や介護など家族としての役割や女性への期待役割を優先して担うために退職と復職を頻繁に行ってきたことがあげられます。そのため、中には資格や前職の給与などを理由に賃金を不当に下げたり、子育てや介護を理由に待遇を変えるといった差別を行う企業も存在します。また、女性は採用への期待値が低いため、低賃金の仕事を受け入れがちです。さらにこれらの状況に人種や民族、障害の有無などの要素が加わると、これらの雇用にかかわる課題が大きくなることに消費者も徐々に気付き始めています。

2020年 「国際イコール・ペイ・デイ」を制定

新型コロナウイルスによるパンデミック以前は、ジェンダー間の賃金平等への動きは、少なからずは前進していました。しかしながら、パンデミックの影響で在宅ワークの増加や家族の健康管理への必要性が増したことで、退職する女性や正社員を辞めてパートタイムで働く女性が増え、賃金不平等の問題は長期化しています。様々な不安(例:望まない労働時間の短縮、手当なしの解雇) からキャリアアップへの考え方が後ろ向きになってしまったのです。仕事と家庭の境界線が曖昧になり、「常に働かなければならない」というプレッシャーの中で、仕事と育児・家事の両立が負担となり、燃え尽き症候群を引き起こすきっかけにもなっています。Women in Workplace 2020 レポート (マッキンゼー)によると、米国だけでも200万人近くの女性が休職や完全な離職を予定している現在の危機的状況は、女性の働き方を半世紀前の状況に引き戻してしまう可能性があるといえます。

賃金格差への動きは、世界各地で異なります。例えば、アイスランドは世界で初めて、そして唯一、フェアな賃金基準を設ける政策をとっています。一方、オーストラリアでは、全国の男女間賃金格差は14.2%、インドでは72%です。 この結果を鑑み、国連(UN)は、2020年9月18日に記念すべき初の「国際イコール・ペイ・デイ」を制定し、不平等の食い止めを目指しています。

今年で2回目となる「国際イコール・ペイ・デイ」では、賃金格差における男女間の不平等への認識を高めるとともに、最も重要な目的として同一の仕事に対して誰しもが平等な賃金を得るなど格差解消に必要な努力を具現化することを目指しています。お祝いの場として留めることなくジェンダーギャップを認め、格差を埋めることに向けた行動を見直す日です。今年の焦点は労働市場で影響力のある立場の人間が、世界的なパンデミックへの対応と復興に向けて、女性の貢献を正当に評価するためにも賃金の平等化が最も重要であると認識し、行動するように促すことです。

消費者の信念とブランドへの影響

消費者がジェンダー間の格差に対し声を上げ続ける中、 ミンテル  トレンド分析 ‘The Unfairer Sex’ では、ジェンダー間の格差は依然として思いがけない形で存在し続けていることをふまえ、ブランドや消費者が現状の打破を試み変化を起こすためにどのような努力をしているかについて解説しています。このデータによると、女性に対する社会的規範や期待については、一層複雑なイメージがあるようです。

例えば英国の女性の67%は、職場で女性が平等に扱われるようにするために、もっと努力すべきだと考えています。重要なのは、若い世代を含む多くの女性自身が、不平等の問題に目を向け、依然として続く格差を解消するために努力をするかどうかです。マーケターにとっては、世界規模でのこうした取り組みを企業として支援することで企業やブランドの認知を高める大きなチャンスとなります。また、女性の活躍の場を広げるための製品やサービス、さらには企業の公平な機会付与への方針転換にも消費者を惹きつける要素があります。反対に、ジェンダーメッセージにおける透明性の欠如はこの問題を深刻に捉えていない印象を与えるため、消費者の反感を招く恐れがあります。 例として、賃金格差の報告をしないことを選択した企業、モリソンズ が挙げられます。パンデミックに伴い、英国政府が企業に対し賃金格差の報告義務を撤廃した際に、同社はこの報告をしないと選択したのです。すると何が起きたでしょう。 消費者が同社の意図やプライオリティーを疑問視するようになりました。また同社は過去に女性従業員が平等賃金を求めて訴訟を起こしたこともあります。 

ジェンダーギャップ問題の認知度向上により契約の打ち切りや告発などの動きが広がっています。アクティビズムが高まり、インターネットへのアクセスが身近になったことで、消費者は公正ではない印象を持った企業の行為を恐れることなく訴えるようになりました。ミンテルの調査によると、近年、ジェンダーへの固定観念や平等性が、消費者にとって倫理的に重要な関心事 となっています。例えば、賃金格差が大きくなると、女性は男性と同じ割合の収入を得ていても、老後の資金を貯めづらくなることを実感しています。ミンテル  ファイナンストラッカー によると、女性は男性に比べて経済的に余裕がないことがわかります。また、製品やキャンペーンを通じて女性が自身で家計を管理し、資産管理のリテラシーを高め、金銭的な話をすることへのタブーを打ち破ることに、企業やブランドが一定の役割を果たしています。

インクルーシビティにまつわるイベントの流行に乗るのは良いことですが、年間を通して社内でそれに伴った行動をしていると裏付けることが重要です。そうでなければ、不誠実な印象を与えかねません。そのため、企業やブランドは、「#国際女性デー」や「#ジェンダー平等賃金デー」に声を上げることよりも、より長期にわたるアクションを起こす必要があります。

ミンテル  グローバルコンシューマーよると、中国の消費者の81%が、平等性を推進する機関/企業との関わりを望んでいます。消費者が常に企業の動向に注目していることを念頭に置き、企業は従業員や消費者に向けて長期的にメッセージを発信し続けることが必要です。同時にこうした問題を解決する意思を持っていると示していくべきでしょう。

ブランドの例

待遇に関する質問はタブー: オーストラリアのビール会社であるLion Coは史上初の取り組みとして、男女間の賃金格差を解消するために採用面接時にこれまでの給与について質問することを禁止。採用時に待遇について尋ねると女性の給与低下を招くとの状況があったため同社は応募書類や面接から給与に関する設問を削除したとのことです。 

#PayUpForProgress : SNS管理サービス会社Hootsuite(フートスイート)は、カナダのスタートアップ企業Unbounce(アンバウンス)が企画した「#PayUpForProgress Pledge(誓約)」に参画し、ジェンダー間の給与格差に関する年次レビューと分析を行い状況改善に向けた行動計画をすると発表しました。 ここでは、CEOをはじめとする上層部が説明責任を果たし、ジェンダー間における給与の平等化を会社全体の経営目標の一つとして考えています。こうした取り組みは、他社だけでなく、Hootsuiteで働く社員自身にも良い気づきをもたらします。

啓発活動 : 1年遅れで開催された2020東京オリンピックではオリンピック史上初め男女平等に近い参加率となる、女性参加率49%を記録しました。18の新種目が追加され、ほとんどの競技で男女選手枠は同数となり、ジェンダー平等を推進するための取り組みが強化されました。また、アイルランドサッカー協会 (FAI) が、男女それぞれのチームに平等な賃金を導入するというニュースも取り上げられています。

給与格差が仕事の遂行度低下を招く:ミンテル  グローバルコンシューマーデータ によると、サウジアラビアの成人の10名中7名が平等を推進する機関/企業に属したいと回答しています。 アラブ首長国連邦スタンダードチャータード銀行 (SCB)は、140万ドルを投資したメディア報道で、女性アーティストの給与が男性アーティストよりも47.6%低いという賃金格差を示しました。さらに、この銀行は47.6%もの給与格差が女性アーティストのプロジェクト遂行度低下を招くことを裏付け、ジェンダーにまつわる不平等問題から目をそらすことがないよう19名の女性アーティストを招いたアート展を開催しました。この展覧会には10万人以上の来場者が訪れ、多くの人が男女間の賃金格差をなくすための誓約書に署名しました。

今後の展開

ジェンダー間の給与格差は、一見すると男女間における給与格差のみが問題と思いがちですが、人種、経験、資格などの要素も絡み合っています。そのため、こうした問題の深層についても理解する必要があります。平等へのさらなる動きが起こるにつれ、政府はより積極的に関与するようになっていますが、多くのブランドや企業は、このようなテーマについて議論するための足がかりをまだ見つけられていません。 消費者は自分の価値観に合ったブランドに集まるため、賃金格差について透明性がなく、是正を目指さないブランドへの人気は薄れていくでしょう 。特に、ミレニアル世代やZ世代は、仕事を探す際に自分の個性を表現することや会社の価値観を上位の判断材料としています。

もう1つのリスクは、深刻な社会問題、特に周囲の人間が当事者になっているような問題に対して、沈黙を続けてしまうこと。その結果、メディアから非難されたり、消費者から不買運動を起こされたりする可能性もあります。ブランドは、コミュニティを支援することと、製品やサービスを通じて様々な社会問題に対する姿勢を示すことの違いを念頭に置いて、今後のキャンペーンのあり方を決める必要があります。社会問題に対するムーブメントはグローバル規模で展開されているため、この動きはさらに変化していく可能性を秘めています。そのため変化を求める人々の要求はさらに大きくなることも予見されます。企業やブランドがそれに応えることができれば、その声の力も比例し、大きくなっていくでしょう。企業は、消費者に関心を持っていることを示すために、教育、エンパワーメント、キャンペーン/ポリシーの活性化という3つのアプローチに焦点を当てることが不可欠であります。

賃金格差は社会における人々の価値観にも影響していることから、「国際イコール・ペイ・デイ」をはじめとする日々の活動も継続して行う必要があります。私たちは、これまでの歩みと、すべての人のための待遇平等化を実現するために何ができるのかを考えることが大切です。